未実現利益消去にかかる税効果は繰延法

未実現損益の消去は、連結システムで自動的に処理する企業が大半です。未実現損益消去の仕訳とともに税効果仕訳も自動的に起票されると思いますが、その理屈をしっかり理解しておかないと痛い目を見ることがあります。今回は未実現損益消去にかかる税効果を考えていきます。

未実現損益の消去にかかる税効果とは何か?

未実現損益消去とは、連結グループ内の取引から生じた利益のうち、まだ実現していない利益または損失を連結決算上で調整する処理です。売却元の企業では、この取引にかかる損益と、この損益にかかる税金を認識しているだろうから、連結決算上、これを調整してくださいね、というのが未実現損益にかかる税効果の論点になります。

会計基準的には、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」が根拠になります(以下、税効果適用指針といいます)。 文章で説明するより、仕訳で説明する方が分かりやすいので、ここからは仕訳を交えて説明します。

取引と仕訳

 売り手:グループ内A社の単独決算上

     (借)現預金  1,000/(貸)売上高  1,000
     (借)売上原価  900/(貸)商 品   900

 ここまでは商品売買取引ですが、この取引を行うと利益に対して税金(ここでは税率30%とします)がかかりますので、

     (借)法人税住民税 30/(貸)未払法人税等 30

という仕訳も同じ期の財務諸表に計上されることになります。

 買い手:グループ内B社の単独決算上

     (借)商 品  1,000/(貸)現預金  1,000

 期末時点で在庫のまま残っていて、この商品が売れたときにかかる税率を20%とします。

連結システムへの登録

 A社 B社への利益率10%、実効税率30%
 B社 A社からの購入在庫 商品 1,000 実効税率20%

 連結処理:未実現損益の消去

    (借)売上原価 100/(貸)商 品  100

  連結処理をここで終えてしまうと、売り手側の税金費用30が残ったままになります。そこで未実現利益消去にかかる税効果処理として

    (借)繰延税金資産 30/(貸)法人税等調整額 30

を仕訳します。これにより、連結財務諸表上はグループ間取引による損益や税金費用が、あたかも何もなかったかのような状態となります。

この説明に違和感ありませんか?

 ここまでの説明で違和感を覚えた方がいるかもしれません。どこかというと
「連結処理をここで終えてしまうと、売り手側の税金費用30が残ったままになります。」
の箇所です。税効果会計を勉強された方はこのように思われるかもしれません。

「税効果会計基準では、(売り手側の)税金費用を調整するのではなく、一時差異にかかる税金費用を調整するのではなかったか?」と。 
 このように思われた方は、鋭い視点をお持ちだと思います。

税効果会計における2つの方法

 税効果適用指針89項には、税効果会計の2つの方法が記されています。資産負債法と繰延法です。

(1) 資産負債法
 資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である。

(2) 繰延法
 繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。

  税効果会計にかかる会計基準(税効果会計基準)では、この2つの考え方のうち「資産負債法によるべし」と書かれています。税効果適用指針88項にも同じことが書かれています。

再び未実現利益の話に戻り、資産負債法と繰延法を考える

資産負債法と繰延法の定義を念頭に置きつつ、未実現損益の話へ戻り、仕訳で理解を進めていきましょう。

(1)資産負債法の考え方では
 資産負債法に基づくと未実現利益は、「資産の会計上と税務上の差異(一時差異)」ということになります。グループ間で取引された棚卸資産は買い手であるB社に留まっており、B社がこの棚卸資産をグループ外へ販売したときに課税されるからです。

 この一時差異が解消された時にB社で課される税金は、100×20%(B社税率)=20ですので、税効果仕訳は

    (借)繰延税金資産 20/(貸)法人税等調整額 20 となります。

(2)繰延法の考え方では
 繰延法に基づくと未実現利益は、「損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)」ということになります。商品はA社→B社に販売されたたものの、A社が販売したことによる利益にはまだ課税されていないという見方です。

 この期間差異にかかる税金は、100×30%(A社税率)=30ですので、税効果仕訳は

    (借)繰延税金資産 30/(貸)法人税等調整額 30  となります。

日本会計基準での取り扱いは「繰延法」

 前述の通り税効果会計基準では、税効果会計は資産負債法によるべし、と規定されていますが、未実現損益の消去は例外的に資産負債法を採用するとしています(税効果適用指針131項)。これは、未実現利益消去にかかる税効果を資産負債法で行うと実務負担が著しく大きいことへの配慮です。ここは各国基準で違いがあります

 日本会計基準:繰延法

 米国会計基準:棚卸資産以外の資産にかかる未実現損益は資産負債法

 IFRS:資産負債法

  会計基準が実務負担のことを十分に配慮してくれているので、今後も変更なしに続いてくれればいいなと考えています。

面白ポイント

 この論点で私が面白いと感じるのは以下の点です。

・「税効果会計は資産負債法」と明確に言っておきながら、未実現損益消去だけは例外的に繰延法を採用していること

・繰延法を採用する理由として「実務への配慮」を挙げていること

・資産負債法を採用する際の困難を、システムの観点からも考慮していること
(ここまで言及するのは珍しい?!)

 この論点は、連結決算実務者が連結決算と税効果会計、2つの論点を正しく、理論的に理解できているかを見極めるための踏み絵にもなります。連結決算要員を中途採用する場合には、面接時の質問に加えてみても面白いかもしれません。

 未実現損益消去にかかる税効果は繰延法である、という話でした。