【中学受験、父と息子の365日戦記】第4話|春期講座と変わり始めた空気

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クラス落ちの通知から数日後、春期講座が始まった。
息子にとっては、レギュラー授業とは違う「少し易しい内容」になったことが、意外にもプラスに働いた。

復習テストで点数が取れる。
授業の話を自信満々に話してくれる。
笑顔が戻り、少しだけ背筋が伸びたように見えた。

それまでの塾通いは、どこか“耐えている”印象だった。
でもこの頃から、“学びに向かっている”ように変化してきた気がする。

ある日、息子が言った。

「塾の自習室って、みんな結構しゃべってるよ。男子も女子も。まぁでも、みんなちゃんと勉強もしてる」

私は思わず笑ってしまった。
きっと、騒がしさのなかにも、子どもたちなりの「仲間意識」や「受験モード」があるのだろう。
そしてその空気に、息子も少しずつ馴染み始めている。

私自身も少し、力が抜けた。
「小学生らしくて、いいじゃないか」と思えたのだ。

この時期、家庭ではまだまだ親の葛藤も続いていた。
「復習したの?」「間違えた問題はやり直した?」
つい、口を出してしまう。

言えば反発するし、言わなければやらない。
そんな堂々巡りのような日々に、正解などないのだと知りつつも、何度もため息をついた。

でも、ふと思った。
自分が小学生のとき、そんなにストイックに勉強していただろうか?
大学受験のときですら、復習を徹底していた記憶なんてほとんどない。

それを今、目の前の子どもに求めている自分。
…少しだけ、笑ってしまった。

中学受験が、息子を育てているのはもちろんだ。
でも同時に、私自身も少しずつ「親としての自分」を育て直されている。
そんな実感が、静かに、しかし確かに、心に根を下ろし始めていた。

(続く)

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※この物語は全8話(随時更新)で構成されています。次話はこちら → 第5話