国民健康保険の“算定基礎”を正しく理解する

老後の負担を左右する仕組みを、専門家がわかりやすく整理します

退職後の家計を考えるとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは「税金」ですが、実際には 国民健康保険(国保)の負担 が家計に与える影響も非常に大きいものです。

国保の仕組みを知っているかどうかで、老後の保険料負担は大きく変わります。

本記事では、国保の中心となる「所得割」の仕組みを、制度に忠実に、分かりやすく整理します。


■ 退職後の健康保険の選択肢

退職すると、次のいずれかに加入することになります。

  • 国民健康保険(国保)
  • 任意継続健康保険(最大2年)
  • 再雇用・再就職で健康保険(社保)に加入

いずれを選ぶとしても、まず理解しておきたいのが 国保の保険料の仕組み です。


■ 国保の保険料は「3つの要素」の合計で決まる

国保の保険料は、以下を合計したものです。

  1. 医療分保険料
  2. 後期高齢者支援金分保険料
  3. 介護保険料(40~64歳)

このうち、保険料の多くを占めるのが 所得割 です。


■ なぜ国保は“重く感じられる”のか

——所得税の最低税率より高い料率がかかるから

国保の所得割率は自治体によって異なりますが、10〜13%台が一般的 であり、所得税の最低税率(5%)を上回ります。

以下は 愛知県のいくつかの主要市における令和7年度の料率 です。

● 名古屋市

  • 医療:8.77%
  • 支援金:2.60%
  • 介護:2.27%
    合計 13.64%

● 一宮市

  • 医療:7.90%
  • 支援金:2.95%
  • 介護:2.60%
    合計 13.45%

● 豊田市

  • 医療:6.39%
  • 支援金:2.34%
  • 介護:2.16%
    合計 10.89%

所得税より高い料率がかかるため、老後は「税金より国保の方が負担感が強い」という声も多くなります。


■ 国保の所得割は「基準所得金額 × 料率」で計算される

もっとも重要なのは 基準所得金額 です。

所得割 = 基準所得金額 × 料率

では、この「基準所得金額」は何で構成されているのでしょうか?


■ 基準所得金額の計算式(全国共通ルール)

基準所得金額は次の式で計算されます:

基準所得金額 = 総所得金額等 − 基礎控除

● 基礎控除は“多くの自治体で43万円”

ただし……

高所得者に対して控除額が減る制度を採用している自治体もあります。

(例:名古屋市では所得2,400万円超から段階的に控除額が減額)

一般的な方は 43万円 が適用されます。


■ 国保に“含まれる所得”と“含まれない所得”を正確に整理する

国保では、所得税・住民税と同様に
総所得金額等 を基礎に計算されます。

では、何が含まれ、何が含まれないのでしょうか?


✔ 含まれる(国保に反映される)所得

● 給与所得

(再雇用・パート含む)

● 公的年金の雑所得

老齢厚生年金・基礎年金など。

● 事業所得・不動産所得
● 総合課税の雑所得

講演料・原稿料など。


申告分離課税の所得も含まれる(最重要)

代表例:

  • 上場株式の譲渡益
  • 上場株式の配当所得
  • 投資信託の譲渡益・分配金
  • FX・先物取引の利益

いずれも 総所得金額等に含まれるため、国保に影響します。

● 信頼性の高い根拠(大阪市公式サイト)

 分かりやすくまとまっていたサイトとして大阪市のものをリンクで示しておきます。
大阪市

上場株式等の配当所得や、源泉徴収を選択した特定口座内の上場株式等の譲渡所得は、申告すると合計所得金額に含まれます

👉 国保の計算基礎にも含まれることを意味します。


✔ 含まれない(国保に影響しない)所得

退職所得(退職一時金)

→ 国保の計算に“完全に含まれない”。

源泉分離課税の利子所得(預金利息)
源泉分離課税の配当所得

(上場株式・投資信託など)

特定口座(源泉あり)の譲渡益

→ 源泉徴収のまま申告しなければ国保に影響しない。


■ 老後の国保はなぜ負担が大きいのか?

  • 控除が少なく、基準所得金額が“厚い”
  • 所得税より高い料率がかかる
  • 年金・再雇用・申告分離所得がそのまま反映される

これが、老後の国保が「思ったより重い」理由です。


■ 75歳からは後期高齢者医療制度へ移行(構造はほぼ同じ)

  • 75歳以降は自動的に後期高齢者医療制度へ
  • 所得に応じた保険料負担
  • 国保と似た仕組みで計算される

老後の家計を考えるうえで押さえておきたいポイントです。


■ 退職直後は「国保 vs 任意継続」の選択になる(予告)

最初の2年間は 任意継続 を選ぶことも可能です。
国保と比較してどちらが有利になるかは、所得・家族構成・勤務実績で変わります。

こちらは別記事で扱います。


■ 再雇用・再就職で“社保に加入できる”ケース(予告)

  • 週20時間以上勤務
  • 一定の賃金基準
  • 企業規模による加入義務の違い

こちらも別記事で詳しく解説します。


■ まとめ:国保の仕組みを理解すると、老後の家計が安定する

  • 国保の中心は「所得割」
  • 所得割は(基準所得金額 × 料率)で計算
  • 基礎控除は原則43万円だが、高所得者には控除額が少なくなる自治体もある
  • 申告分離課税の所得は国保の算定基礎に含まれる
  • 源泉分離課税の所得は国保の算定基礎に含まれない
  • 退職一時金は国保の算定基礎に影響しない
  • 老後の負担は“所得割”による影響が大きい

国保の仕組みを理解すると、退職後20〜30年の見通しが大きくクリアになります。
老後の家計設計に欠かせない基礎知識のひとつです。

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