この本、読みました!例外編 太陽の塔

書籍情報

書名:太陽の塔
著者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版時期:2003年12月
中学入試採用実績:内容的に採用実績はない気がする(未調査)

公式紹介文(新潮社HPより引用)

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

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本を手に取ったきっかけと読書順

今回取り上げるのは、森見登美彦さんのデビュー作『太陽の塔』です。
読書順は、父が先。息子は未読。そして、この「未読」には明確な理由があります。

前回取り上げた『成瀬は都を駆け抜ける』(宮島未奈著)の第2話「実家が北白川」では、森見小説愛好サークルが登場し、その視点主・梅谷誠くんが「初めて読んだ森見小説」として、この『太陽の塔』の名を挙げていました。

気になって調べてみると、森見登美彦さんはご自身の著作の中で、この『太陽の塔』を「長男」と呼び、特別な思い入れを持っているようです。
一方、『夜は短し歩けよ乙女』は「愛娘」と表現されているとか。

森見小説デビューをするなら、やはり長男から読まねばなるまい。そう思って手に取りました。

息子より先に私が読んだのは、受験直前期だからという理由ではありません。
これは、検閲です。
第12回「告白」での教訓を、私は忘れていません。

読み始めて2日で読了しましたが、間を置かず2周目に入りました。

親子で読むことを想定した私の感想

率直に言います。

息子に読ませる前に、自分が読んでよかった。
そして、読ませるかどうかは、息子の成長を見ながら熟慮すべきだ。

そう思いました。

理由は単純で、この本は息子にとって強い影響を与えかねないと感じたからです。

たとえば――
知性を重んじ、理屈(時には屁理屈)をこねることを是としつつ、行動が伴っていない自分を、分かっていながら認めようとしない気質。
今の息子がそうだ、とは言いません。ただ、その芽のようなものが、時折見えるのも事実です。

この小説は、その気質を過度に刺激する危険性があるのではないか。そんな懸念が頭をよぎりました。
もちろん、これは父親ゆえの過剰な心配であり、取るに足らないと言えばその通りです。

ただ、どうしても引っかかるものがありました。

それが、『成瀬は都を駆け抜ける』に登場した森見小説愛好サークル「京大達磨研究会」の会長・木崎くんの存在です。
愛知県出身。中高6年間を男子校で過ごし、「黒髪の乙女とおともだちになりたい」と思いながらも、なかなか行動に移せない学生。
あまりにもリアルで、つい息子の将来像を具体的に思い描いてしまうのです。

それ以外にも、『太陽の塔』では「法界悋気(ほうかいりんき)」という言葉が頻出し、凝りに凝った言い回しがこれでもかと登場します。

――これは、間違いなく息子の好みです。

人生の大半を“非モテ”として生き、作中の言葉を借りれば「男だけのフォークダンスを踊り狂う」大学生活を送った私としては、息子には、もう少し華やかな学生生活を送ってほしい。そう願ってしまうのです。
そういう意味で、この小説は息子にとって猛毒になるかもしれない――そんな恐れすら抱きました。


読書を通じて感じたこと

息子のことを一旦脇に置けば、この『太陽の塔』は、とてつもなく面白い作品でした。

私は京大生の生態をよく知りません。
これほどの知性もなければ、独自世界を突き抜けるほどの気性もなく、法界悋気を培った覚えもありません。

それでも、自分の性質のどこかを何倍、何十倍にも増幅していけば、この作品の登場人物たちにたどり着くのではないか――
そんな感覚を覚えます。

彼らへの共感。
自身の学生時代の記憶。
そして、失恋の感情。

それらが奇妙に結びつき、なんとも言えない可笑しさと愛しさが込み上げてくるのです。

登場人物は、ほぼ全員が突き抜けています。
それなのに、不思議と全員が「愛すべき人」に思えてくる。
この感覚は、成瀬あかりシリーズとも通じるものがあると感じました。

作中に登場する
「ゴキブリキューブ」
「砂漠の俺作戦」
「四条河原町ええじゃないか騒動」

どれも強烈で、これまで読んできた青春小説とは明らかに違う面白さがあります。

リアリティに満ちた物語から、いつの間にか自然にファンタジーへと滑り込んでいく感覚。
小説を読んでいるはずなのに、映画を観ているような錯覚すら覚えました。

京都に縁の薄い私でさえ、小路を駆け抜け、四畳半の下宿を鮮明に思い描けてしまう。
その描写力には、ただただ驚かされます。

おまけ

『成瀬は都を駆け抜ける』において、梅谷誠くんは小学三年生のときに児童文学に飽き、『太陽の塔』に手を伸ばした、という設定でした。
きっと、あの大学には、そういう人が少なくないのでしょう。

そして、愛知県の、あの中高一貫校にも。

私のような凡人には、なかなか想像のつかない世界です。。