この本、読みました!第7回 君が夏を走らせる
書籍情報
書名:君が夏を走らせる
著者:瀬尾まいこ
出版社:新潮社
出版時期:2017年7月
中学入試採用実績:2018年度第1回海城中
公式紹介文(新潮社HPより引用)
ろくに高校に行かず、かといって夢中になれるものもなく日々をやり過ごしていた大田のもとに、ある日先輩から一本の電話が入った。聞けば一ヵ月ほど、一歳の娘鈴香の子守をしてくれないかという。断り切れず引き受けたが、泣き止まない、ごはんを食べない、小さな鈴香に振り回される金髪少年はやがて――。きっと忘れないよ、ありがとう。二度と戻らぬ記憶に温かい涙あふれるひと夏の奮闘記。
『あと少し、もう少し』で駅伝の第2走者を務めた不良少年・大田。
続編『君が夏を走らせる』では、そんな彼が高校生となり、思いがけず「子守」を引き受けることから物語が始まります。
軽快でユーモラス、なのに胸を突いてくる瀬尾まいこさんの世界。父と息子、それぞれが抱いた感想を交えてお伝えします。
本を手に取ったきっかけと読書順
「『あと少し、もう少し』の続編があるらしいよ。主人公は第2走者の大田君だって」
そう息子に話すと、間髪入れず「読む!」と即答。妻に頼んで図書館から借りてきてもらい、すぐに手に取ることになりました。
タイトルを見たときは「大田君が陸上に本格的に目覚めた話かな?」と想像しましたが、そんな単純な展開ではないのが瀬尾まいこ作品。物語は、想像をはるかに裏切るユニークな方向へと進んでいきました。
なお、読み始めは息子が先でしたが、読了は父である私が先行することに。会社の昼休みに一気に読み終え、オフィスで人目をはばからず涙を流してしまいました。
親子で読んだ感想
序盤から物語はテンポよく進み、思わず笑える場面も多い。フィクションらしい大胆さと、リアルな日常の肌触りが混ざり合って、読む手が止まりません。
16歳の大田君の目線で描かれる体験は、かつて自分も過ごした日常の追体験のようでもありました。けれど、彼が抱く屈折や葛藤は、私自身がその頃持ち合わせていなかったもの。30年の時を経て、思春期特有のもどかしさを突き付けられ、「自分はあの頃、もっと単純にしか考えられていなかったな」と振り返らされました。
青春小説というより日常ドラマのように始まりつつも、最後にはしっかりと青春小説に収束していく――。その鮮やかさに、アラフィフの私にはまぶしさすら感じられました。そして同時に、「大田君、精神年齢高すぎない?」と驚かされる場面も多々ありました。
一方で息子から多くの感想を引き出すことはできませんでしたが、ひとこと交わした会話が忘れられません。
「大田君、かっこいいよね」
「うん、かっこよかった」
短いながらも感極まった様子が伝わり、それ以上は聞けませんでした。父としては、同じ作品に胸を熱くしたことが何よりもうれしい出来事でした。
読書を通じて感じたこと
迷い、悩みながらも前へ進む力――それこそが青春のエネルギーであり、魅力なのだと思います。
もちろん、常に走り続けるだけが青春ではありません。立ち止まる時間も、考え込む時間も、すべてが等しく青春を形づくる要素なのだと実感しました。
これから本格的な思春期を迎える息子の姿を前に、私は「親が急がないこと、子どもを急がせないこと」が何より大切なのだと改めて心に刻みました。