この本、読みました!第8回 一瞬の風になれ
書籍情報
書名:一瞬の風になれ
著者:佐藤多佳子
出版社:講談社
出版時期:2006年8月
中学入試採用実績:甲陽学院など複数校で出題あり
公式紹介文(講談社HPより引用)
春野台高校陸上部、1年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感……ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。
本を手に取ったきっかけと読書順
この本との出会いは、私が妻に「中学生が読みそうな青春小説を借りてきて」とお願いしたことでした。
妻は過去に佐藤多佳子さんの作品をいくつも読んでおり、その縁で選んできてくれたのが本作『一瞬の風になれ』です。
読書順は、息子が先。けれども最後に読み終えたのは父である私でした。
親子で読んだ感想
文庫で全3巻という大作。最初は試しに1巻だけ借りてきたのですが、息子は驚くほどの速さで読み切り、「2巻も借りてきてね」とリクエストしてきました。
一方の私はというと、まるでギアが入らない。主人公・神谷新二の語り口調がどうにも自分の波長に合わず、読み始めは苦戦しました。正直「この子とは友達になれないかもしれない」「大人として接するなら、かなり手を焼きそうだ」とまで思ったほどです。
けれど、ページを重ねるうちに不思議と慣れていきました。そして、第2巻の中盤から突然エンジンがかかり、気がつけば止まらない。第3巻に入ってからは、副業の作業も忘れ、寝る間も惜しんで読み進めていました。青春の熱さが全て詰まっているかのような圧倒的な物語に、胸が震えたのです。
物語は新二が1年生から3年生へと進級していく3年間を追います。その成長は競技の記録だけではなく、精神的な成熟としても鮮やかに描かれていました。序盤で「波長が合わない」と感じたのは、新二の幼さに大人目線で苛立ってしまったからなのでしょう。終盤には、期待と不安を抱きながら彼を応援する自分がいました。
「読み終えたら陸上やりたくなった?」と息子に尋ねてみました。返ってきた答えは「ううん、陸上はやらないと思う。100メートル走とか、僕には無理」。……親としては「ちょっとやってみようかな」ぐらいの返しを期待したのですが(笑)、息子なりに物語の良さは感じ取っていたようです。
読書を通じて感じたこと
青春の過ごし方、感じ方は十人十色。
小説を通じて、私はこれまでいくつもの青春を疑似体験してきましたが、改めてそう思わされました。
序盤、私が新二に共感できず読み進めるのに時間がかかったのに対し、息子は一気に読了。おそらく主人公や仲間たちに、息子なりに強く共感できたのだと思います。
私とは異なる青春を歩むのだろうな――そう思うと同時に、それを自然なこととして、温かく見守ろうと心に決めました。
作中では短距離走(100m、200m)が中心に描かれますが、中距離やリレー、長距離の描写もあります。もしかすると息子は、競技特性の違いを今の自分の勉強科目になぞらえて感じ取っていたのかもしれません。迷い、悩みながらも前へ進む力――それこそが青春のエネルギーであり、魅力なのだと思います。
もちろん、常に走り続けるだけが青春ではありません。立ち止まる時間も、考え込む時間も、すべてが等しく青春を形づくる要素なのだと実感しました。
これから本格的な思春期を迎える息子の姿を前に、私は「親が急がないこと、子どもを急がせないこと」が何より大切なのだと改めて心に刻みました。