この本、読みました!第10回 逆ソクラテス

書籍情報

書名:逆ソクラテス
著者:伊坂幸太郎
出版社:集英社
出版時期:2020年5月
中学入試採用実績:集英社HPによれば、複数の中学で入試試験として採用されたとのこと。

公式紹介文(集英社HPより引用)

 「敵は、先入観だよ」学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。カンニングから始まったその計画は、クラスメイトや担任の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。はたして逆転劇なるか!? 表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。

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本を手に取ったきっかけと読書順

家族3人で三省堂書店名古屋本店へ出かけたときのこと。文庫化され、人気作として平積みされていたのが目に留まりました。主人公が小学生というのも珍しく、「息子にも共感できるところがあるかな?」と感じて購入を決めました。
このとき息子は星新一さんの本を2冊選んでおり、そちらを先に読み始めたため、『逆ソクラテス』は私が先行して読みました。

親子で読んだ感想

読了後、胸に残ったのは表題作「逆ソクラテス」の一文――「敵は、先入観だよ」。
私は、自分がいかに先入観で凝り固まっているかを突きつけられ、ハンマーで殴られたような衝撃を受けました。「大人だから仕方ない」ではなく、「知識や経験に基づく思考が、子どもにとってはむしろ害になることもあるのでは」と考えてしまったほどです。

一方、妻や息子はそこまでの衝撃は受けなかった様子で、むしろ「スロウではない」の方を面白いと感じたようです。確かにミステリー的な仕掛けがあり、テーマの重さも違う。読者の立場によって響き方が大きく異なる一冊なのだと思います。

印象的だったのは、息子が「良かったよ」とだけ言ったこと。あれこれ突っ込んで聞き出すより、その一言に彼なりの満足感や充実感が込められていると感じました。塾のテストで面白い論説文を薦めてくれる息子ですが、この小説には「論説文の面白さ」と「小説としての物語性」が絶妙に混ざり合っていて、それが彼に響いたのかもしれません。


読書を通じて感じたこと

集英社HPの特設サイトによると、この本は実際に複数の中学入試で出題されています。おそらく、私のように「先入観の恐ろしさ」に衝撃を受けた大人たちが「ぜひ子どもに読ませたい」と思って選んだのでしょう。
ただ実際に先入観で凝り固まっているのは大人の方で、子どもはむしろ柔軟に「面白い物語」として受け止めている。この“ズレ”に可笑しさを感じました。

つまりこの本の面白さは、読み手の立場によって「衝撃の一冊」にも「爽快な物語」にも変わるところにあるのだと思います。私は大人として痛烈な反省を、息子は物語としての楽しさを――同じ本を通じて違う体験を分かち合えたことが、一番の収穫でした。