余裕資金の運用をどう考えるか――ファンド整理と「使わない資金」の明確化
家計の資産運用や住宅ローンについて相談された方から余裕資金に関する質問をいただきました。
「ファンドの整理」と「非リスク資産の位置づけ」を実務的に検討します。
相談内容
現在、家庭の金融資産6,500万円とは別に、余裕資金として1,400万円があります。
このうち900万円は投資信託で運用し、残りの500万円は預金です。
すぐに使う予定はありませんが、今後どう扱えばいいか整理したいです。
💬 MK
まず前提として、この1,400万円は「家計とは切り離された自由資金」です。
性格としては、生活には使わず、運用を目的とした資金。
ただし、“運用できる”と“運用すべき”は別問題です。
まず、使途を整理しておきましょう。
🗣️ 相談者
このうち、将来的に両親の介護関係で700万円を確保しておきたいと思います。
両親夫婦で平均1,400万円程度かかると試算しており、これを私の兄弟で分担する予定なので、私の負担分を非リスク資産で置いておきます。
残り700万円を運用対象として考えたいと思います。
💬 MK
明確な分け方です。
介護費用700万円を非リスク資産として確保し、
残り700万円を運用資金として考える――非常に整理されています。
🗣️ 相談者
現在は「日経平均ファンド」と「先進国株ファンド」をほぼ半々で保有しています。
この機会に、どちらかにまとめた方がいいのではと思っています。
特に、先進国株ファンドに一本化した方が合理的な気がしています。
💬 MK
良いテーマです。
一本化には明確なメリットとデメリットがあります。
【比較①:リターンとリスク】
| ファンド | 想定リターン | 想定リスク(標準偏差) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 日経平均ファンド | 約10〜12% | 約18% | 為替リスクなし。国内依存で成長余地は限定的。 |
| 先進国株ファンド(日本除く) | 約15% | 約17% | 米国主導。為替リスクあり。世界経済の成長を取り込みやすい。 |
【比較②:分散効果】
相関係数は0.6〜0.7。
動きは似ていますが、完全一致ではないため、
日経平均を残すことで一定の分散効果を維持できます。
🗣️ 相談者
なるほど。
為替リスクはありますが、長期的には先進国株一本の方が合理的に思えます。
為替ヘッジ付きにすれば、円高時の影響も抑えられますよね?
💬 MK
確かに円高リスクは抑えられますが、ヘッジコストがかかります。
長期ではこのコストがリターンを削るため、
完全ヘッジはかえって非効率です。また、円安局面ではヘッジがマイナス要因になります。
為替は“リスク”であると同時に、“分散”でもある――
つまり、持つ価値があるリスクです。
【比較③:課税の問題】
日経平均ファンドを売却して一本化すると、
含み益に対して20%の譲渡益課税が発生します。
NISA外であれば、これは税金を前倒しして払うことになります。
🗣️ 相談者
そうなると、日経平均ファンドを維持しながら、
新しい投資だけを先進国株に寄せる方が良さそうですね。
💬 MK
それが最も合理的です。
時間をかけて比率を変える。
最初から一本化せず、自然な比率変化で先進国株を主軸にしていく。
これがコストと分散の両立になります。
🗣️ 相談者
ただ、もし今後株価が大きく下落したら、
非リスク資産の700万円を使って買い増ししたくなるかもしれません。
この700万円は使ってもいいのでしょうか?
💬 MK
いいえ、絶対に使ってはいけません。
この700万円は「投資余力」ではなく、
あなたの両親の緊急費用という“保険的資金”です。
暴落時の買い増し原資ではありません。
この資金を投資に使うことは、リスク許容ではなく目的の逸脱になります。
【感情的リスクへの対処】
もし「暴落時に動きたくなる」という自覚があるなら、
現時点でリスク資産の比率をさらに下げ、非リスク資産を増やしてください。
リスク許容度を誤るより、リスクを小さくしておく方が長期的に合理的です。
この700万円は、「動かさない」という決断こそがリスク管理です。
🗣️ 相談者
よく分かりました。
つまり、この700万円は介護や葬儀などのための保険的な資金であり、
投資の買付余力としては考えないということですね。
では、もし資金を取り崩す必要が出た場合は、どのファンドから崩すべきでしょう?
💬 MK
その場合は、日経平均ファンドから取り崩すのが基本です。
理由は以下の2点です。
- 先進国株ファンドは長期成長を狙う中核。
- 日経平均ファンドはリターン期待が低く、売却による税コストも最小化しやすい。
つまり、「必要に応じて使う=日経平均側」「長期保有=先進国株側」という区分です。
🗣️ 相談者
本来は先進国株一本にしたいところですが、
税金コストを考えると、現状のまま運用を続けた方が合理的ですね。
💬 MK
はい。
税負担・分散・為替をすべて考慮すると、
現状維持+新規投資は先進国株寄りが最適です。
非リスク資産の700万円は、あくまで生活防衛・親の備えとして守り抜いてください。
🗣️ 相談者
これで整理できました。
基本的に余裕資金なので、使う用事や使いたい時が来たら日経平均側から必要な額を崩す方針で進めます。
💬 MK
非常に良い方針です。
税コストを抑えながら、役割を明確に分けた運用。
それが、生活と投資を両立させる最も堅実な方法です。
まとめ
1.両親の介護費用700万円を非リスク資産で確保。
この700万円は「親の緊急費用」として絶対に動かさない。
2.運用資金700万円は現行ポートフォリオ(日経+先進国)で継続。
一本化は課税コストの観点から見送り。
3.暴落時の買い増しは厳禁。
買付余力と誤認しないように。暴落時に買い増したいのであれば、運用効率は落ちるが最初の時点で非リスク資産を作っておく。
4.資金を崩すときは日経平均ファンド側から。

