50歳で早期退職する?60歳まで働く? 割増退職金がある場合、退職金と税金はどう変わるのか
はじめに:早期退職の判断を「税金だけ」で決めてはいけない
早期退職制度がある会社に勤めていると、
「割増退職金がもらえるなら、今辞めた方が得なのでは?」
と考える方も少なくありません。
一方で、
「退職金にかかる税金はどうなるのか」
「定年まで働いた場合と、どれくらい差が出るのか」
といった点が気になり、判断に迷うのも自然なことです。
このケーススタディでは、50歳で早期退職する場合と、60歳で定年退職する場合とで、退職金と税金がどれくらい変わるのかを、
できるだけシンプルな前提で比較してみます。
結論を先に言えば、
税金の差だけで、早期退職か定年退職かの結論が出るわけではありません。
本記事は、判断材料の一つとして「税金の仕組み」を整理することを目的としています。
なお、本記事で行っているシミュレーションは、
当サイトで公開している「退職金・年金シミュレーター」を用いて計算しています。👉 退職金・年金シミュレーターはこちら
退職所得控除や1/2課税、復興特別所得税まで反映したうえで、
条件を揃えて比較しています。
今回の前提条件(重要)
まず、今回のシミュレーションにおける前提条件を整理します。
- 相談者は50歳、勤続年数は22年
- 勤務先には早期退職制度がある
- 50歳で早期退職した場合
- 通常退職金:1,000万円
- 割増退職金:1,500万円
- 合計:2,500万円
- 60歳で定年退職した場合
- 退職金合計:2,000万円
- いずれも
- 退職金の半分は本来DB(企業年金)
- 半分は一時金
という制度だが、
比較を単純にするため、今回は「全額を一時金で受け取る」前提で計算します。
※実際には、DBを年金で受け取るか一時金にするかで税金は変わります。本記事はあくまで「制度理解のための単純化した比較」です。
ケース1:50歳で早期退職した場合
- 退職金:2,500万円
- 勤続年数:22年
この条件で計算すると、税額は以下のとおりです。

- 所得税:1,182,318円
- 住民税:785,000円
- 税金合計:1,967,318円
したがって、
手取り額
2,500万円 − 1,967,318円 = 23,032,682円
となります。
※なお、ここで計算している所得税額には、所得税本体に加えて「復興特別所得税(所得税額の2.1%)」も含めています。
退職所得についても、通常の所得税と同様に復興特別所得税が上乗せされるため、税額を確認する際にはこの点も見落とさないよう注意が必要です。
ケース2:60歳で定年退職した場合
- 退職金:2,000万円
- 勤続年数:32年
この条件で計算すると、

- 所得税:91,890円
- 住民税:185,000円
- 税金合計:276,890円
手取り額
2,000万円 − 276,890円 = 19,723,110円
となります。
税金の差はどれくらいか?
2つのケースを比べると、
- 税金の差
1,967,318円 − 276,890円 = 1,690,428円
となります。
一見すると、
「割増退職金が1,500万円もあるのに、税金が170万円も増えるのか」
と感じるかもしれません。
なぜ、ここまで税金に差が出るのか?
理由①:退職所得控除の差が非常に大きい
退職金には「退職所得控除」があります。
勤続年数が20年を超えると、1年あたり70万円ずつ控除額が増えるため、
- 50歳(22年)と
- 60歳(32年)
では、退職所得控除に700万円もの差が生じます。
この控除差が、税額の大きな違いを生んでいます。
理由②:適用される税率が大きく変わる
定年退職のケースでは、
- 割増退職金がない
- 控除額が大きい
結果として、課税対象となる退職所得が大幅に減り、
所得税率は5%で収まります。
一方、早期退職のケースでは、退職所得が大きくなるため、適用税率は23%になります。
※ここでいう「23%」は、退職所得控除後、さらに1/2課税を行った後の金額に対する税率です。
退職金にそのまま23%かかる、という意味ではありません。
ここから分かること(制度面)
このケースから、次のことが分かります。
- 退職所得控除の影響は非常に大きい
- 特に勤続20年を超えている人は、1年あたり70万円の控除を積み上げられるメリットが大きい
- 定年まで働くことで、税制面では有利になりやすい
とはいえ、単純比較はできない理由
ただし、この結果だけを見て
「税金が高くなるから早期退職は不利」
と結論づけるのは適切ではありません。
理由は大きく3つあります。
① 割増退職金と通常退職金は性質が異なる
- 割増退職金
→ 「今後働かなくても受け取れるお金」 - 定年退職時の退職金
→ 「この後10年間働くことによって積み上げるお金」
同じ「退職金」でも、意味合いはまったく異なります。
② 10年後の1,000万円と、今もらう1,500万円は同じではない
60歳まで働けば、
退職金は1,000万円増える見込みです。
しかし、その1,000万円は10年後に受け取るお金です。
インフレが進む現在では、
- 今の1,000万円
- 10年後の1,000万円
の価値は、必ずしも同じとは言えません。
一方、割増退職金として今受け取るお金は、現在価値そのものです。
運用する、生活費に充てる、別の選択肢を取る――使い方の自由度も高くなります。
③ 早期退職後の10年間は人によってまったく違う
50歳で早期退職した後、
- 再就職する人
- 起業する人
- しばらく働かない人
その後の収入や生活は、人によって大きく異なります。
この「その後の10年間」まで含めると、税金や手取りを一律に比較することはできません。
まとめ:税金は判断材料の一つとして冷静に見る
今回のケーススタディから分かるのは、
- 退職所得控除は非常に強力な制度である
- 勤続年数が長いほど、税制面では有利になりやすい
という点です。
一方で、
- 早期退職か、定年退職か
- 割増退職金をどう評価するか
は、税金だけで結論が出る問題ではありません。
退職金は、
働き方・時間・その後の人生設計と密接に結びついたテーマです。
税金の仕組みを正しく理解したうえで、「自分にとって何を優先するのか」を考えることが、後悔の少ない選択につながると考えています。
