【中学受験、父と息子の365日戦記】第10話|8月度編②学びと読書の夏休み

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八月、夏期講座の真っ只中。
宿題に追われ、復習テストの点数に一喜一憂しながらも、息子は不思議なバランス感覚を見せていた。

午前は静かに読書。午後は塾での授業とテスト。夜は再び本を開く。
「勉強だけでなく、読書も遊びも、自分のペースで調整する」――そんな姿が、目の前にあった。

机に積み上がる夏期講座の教材の横には、書店で選んだ本が並ぶ。
瀬尾まいこや佐藤多佳子、辻村深月――青春小説の主人公たちが悩みながら進む姿に、息子は夢中になっている。

ある日、復習テストの出来が悪かった。
「良くも悪くもない」と言いながらも、表情には悔しさがにじむ。
その後すぐにノートを開き、間違えた箇所を書き直していた。

私は声をかけなかった。
「もう口出しは不要だ」と思えたからだ。
夏休みを、息子は息子なりに「学びと読書」で満たしている。

点数の波はまだある。
しかし凡ミスが少しずつ減ってきた。
この日々の積み重ねが「自走の夏」を確かなものにしていくのだろう。

合格の可能性よりも、読書に没頭する姿に、私は心から喜びを覚えていた。赤鉛筆でミスを塗りつぶしている。
何度も言ってもやらなかったことを、いまは自分から進んでやっている。

私は、ただ黙ってその姿を見つめた。
「言わなくてもやっている」――その事実に、胸が熱くなる。

けれど同時に、不思議な感情が湧いた。
いざ自走が始まると、親としてできることが減ってしまう。
口を出さないと決めていたのに、本当に出番がなくなると、心のどこかに小さな喪失感が残る。
その戸惑いをどう扱えばいいのか、まだ分からなかった。

ただひとつ確かに言えるのは、成績以上に「姿勢の変化」が大きいということだ。
ゲームやYouTubeを控え、たとえ見た時でも決められた時間(21時)の1分前にはピタリとやめて、机に向かう。
「今日はここまで」と自分で線を引き、また次の日には机に向かう。

小さな芽が、確かに育ち始めている。
その芽を守るのは、肥料や水よりも「信じて見守ること」なのかもしれない。

(続く)
※この物語は全12話(随時更新)で構成されています。次話はこちら → 第11話
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