【中学受験、父と息子の365日戦記】第13話|9月度前編 好調と停滞のはざまで

夏期講座が終わり、8月の熱気が一段落した。
その反動か、息子の勉強ペースは少し落ち込んでいた。
宿題に取り掛かるにも腰が重く、テレビやYouTubeに気持ちを持っていかれる。
机に向かっても集中が続かず、うとうとと眠ってしまうこともある。
父親としては「そろそろ切り替えないと」と思う一方で、長い夏を走り抜けた疲れを考えれば、しばらくリラックス期に入るのも当然かもしれない。
受験まで残り5か月。
私は「まだ5か月もある。これから先もアップダウンはあるから落ち着いていけばいい」と思っていた。
一方、息子は「もう5か月しかない。もっと勉強し、量も増やさなければならない」と口にする。
ただ、実際のところ――私は「落ち着いていけ」と言いながら自分自身が落ち着いておらず、息子は「慌てなきゃ」と言いながら積極的に机に向かえているわけでもない。
なんとも”ちぐはぐ”な親子の姿が、そこにあった。
そんな日々の中で、思いがけない知らせが届いた。
合否判定テストと8月度成績表(公開学力テストと復習テストの総合成績)。どちらも、これまでで最も良い成績を残していたのだ。
クラス順位もトップに近く、数字を見て私は思わず「本当にうちの子か」と目を疑った。
ところが本人はいたって冷静だった。
「うれしいけど油断はしないよ」
「成績が良かったから次は落ちるんじゃないか?って不安にもならない。ただ、平常心で続けるだけ」
その言葉に私は驚いた。
父親の私のほうが動揺し、喜びと不安の波に揺られているのに、息子はまるで老成した僧侶のような顔をしている。
「父より落ち着いているかもしれない」――そう苦笑しながら、彼の背中を見ていた。
しかし現実は単純ではない。
復習テストの成績はむしろ落ちている。
平均点を下回ることもあり、特に社会や算数では結果が伴わない。
「公開テストで結果を出しているのに、普段の勉強時間は減っている」
このアンバランスさが、私の心をざわつかせた。
さらに九月、新しい舞台が始まった。
日曜志望校別特訓、通称「日特」。
朝十時に始まり、夜九時過ぎまで続く十時間超の授業。
算数が二コマ、他科目も加わって全五コマ。
小学生がここまで勉強するのか――初日の帰宅後の息子の疲れ切った表情に、私は思わず問いかけた。
「ここまでやる必要があるのかな?」
教材を開いて、さらに驚いた。
レギュラー授業だけでも山のような宿題があるのに、その上に日特の宿題が追加される。
「これを全部やれというのか?」と大人でも怯む量だった。
私は付箋を貼りながら、半ば呆れ、半ば怒りを感じていた。
ただ、数日たつと少し落ち着いた。
「レギュラーを大事にして、日特の宿題はほどほどでいい。テストは間違えたところを中心に振り返れば十分」
そう割り切れるようになった。
全部を完璧にこなそうとすれば、子どもが壊れてしまう。
その手前でブレーキをかけるのも、親の役割なのかもしれない。
迎えた9月度公開学力テスト当日。
前日は自信をなくしていた息子が、試験から戻るなり玄関の扉を勢いよく開けて叫んだ。
「国語は偏差値七十を超えたかもしれない!」
興奮気味に自己採点をし、食事も忘れて間違い直しをしていた。
結果がどう出るかはまだわからない。
簡単な問題だっただけかもしれないし、実力がついてきた証かもしれない。
だが、その姿を見て私は確信した。
「このまま見守っていけば、悪いことは起きない。どんな結果でも、きっと良いことしかない」
成績の上下よりも、今はその平常心と、机に向かう背中を信じたい。
好調と停滞のはざまで揺れる九月前半。
息子と私の物語は、また新しい段階に入った。
(続く)
※この物語は全13話(随時更新)で構成されています。9月度後編は9月末に公開予定です
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