【中学受験、父と息子の365日戦記】第18話|11月度後編 手応えの11月、静かな自信

11月の半ば、息子がいつものように塾から帰ってきた。その表情には、どこか吹っ切れたような明るさがあった。
「先生がさ、第一志望校、狙えるって言ってたよ」
そう言いながら、息子はまるで当然のことのように通塾用バッグを下ろした。つい数日前は「大丈夫かな?」と弱気になっていたはずなのに、その言葉は跡形もない。
“人はこんなにも簡単に前を向けるのか”――
私はその図太さに、半ば呆れながらも感心していた。切り替えの早さというのは、時に才能だと思う。
11月23日、第1志望校のプレ模試があった。
名古屋校で受験したその模試は、問題数も記述量も多く、息子のように集中力が持続しにくいタイプには厳しいはずだった。
それでも本人は、
「算数はいい感じ。国語は記述しだい。理科と社会は…まあまあ」
と、悪くない表情をしていた。
ただ、それはあくまで“手応え”であって、結果は分からない。親が期待しすぎるのは避けようと思った。
驚いたのは翌日だった。
地元教室の指導担当の先生が、すでにその模試の内容を把握していたのだ。名古屋校で受けた試験が、一夜でここまで連携されているとは思わなかった。
息子に対しても具体的なフィードバックがあったらしいが、当の本人は、帰宅後に淡々と「理科と社会は微妙だったね」とだけ言った。
塾でのやり取りが、私の知らない“息子と先生の世界”になりつつあるのが分かった。それは寂しさと同時に、成長の証でもあった。
プレ模試の後も、学校からの帰宅が早い日は、息子は自習室に向かった。
机に向かっている時間そのものは、まだ多いとは言えない。気がつけばうとうとし、寝てしまうことも多い。それでも、去年の自分なら考えられなかった行動だ。
夜には、社会の一問一答を家族で回し、笑いながら”1000問ノック”を続けた。
YouTubeは見なくなり、「水曜日のダウンタウン」は週に1話。ただし、「ギャグマンガ日和」は“制限外”らしく、そこだけは抜け道になっている。
子どもらしくて、私は少し安心した。
11月の終わりごろ、月例の成績表(成績個人票)が渡された。
3科総合は、10月・11月と二か月連続で1位。一方、社会は引き続き低迷しているが、理由は明確だった。
地理が圧倒的に弱いのだ。そして歴史も弱い。順位表を見ると、社会は9人中7位。
ただ、これは“悪い”というより “課題がはっきりしている” だけだ。
社会は知識科目で、追い上げが効く。苦手が算数だったら、きっとこんなに余裕を持ってはいられなかった。
私は心の中で、何度も「社会でよかった」とつぶやいていた。
気がつくと、クラスの人数は減っていた。
元々13人いたクラスで、公開テストや復習テストの受験回数が不足して、順位判定に“入ってこない子”が4人になっていた。
一概に離脱とは言えないのだろう。だが、ここまで走り続けることがどれほど難しいかを示す、静かな数字でもあった。
その意味でも、息子は恵まれていると思う。家族の環境も、健康も、塾との相性も、そして本人の性格も。
どれか一つ欠けていたら、ここまで前を向いて走ることはできなかっただろう。
12月を目前に控えた夜、私は息子の寝顔を眺めながら、そっと思った。
――成績がどうこうではない。
大事なのは、この姿勢だ。
息子は前を向いた。
あとは走り切るだけだ。
入試本番まで、あとわずか。親の役割は、とっくに終わっている。ここから先は、息子自身の物語だ。
(続く)
※この物語は全18話(随時更新)で構成されています。12月度前編は12月中旬公開予定です
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