【中学受験、父と息子の365日戦記】第20話|12月度② 崩れて、立て直すまでの10日間

← 第19話へ第21話へ →

第1志望校のプレ模試と、第2志望校の冠テストの結果が返ってきた。

第1志望校のプレ模試は、4科目すべてで安定して点が取れていた。今や得意科目となった国語が上位に食い込み、それ以外の3科目もまずまずの点がとれたため、全体としてまとまった印象だった。それでも判定はAには届かなかった。
私はその結果を見て、正直戸惑った。ここまでやっても、なお届かないのか――
苦手としてきた社会も、粘り強く食らいついていたが、一方で、得意なはずの算数は伸びきらなかった。「平均点を超える」だけでは足りない。もうひと伸びが要る、ということなのだろう。

第2志望校の冠テストは、親子ともに驚く結果だった。
特に国語は群を抜いており、算数は万全とは言えないものの、理科と社会が崩れず、全体として非常に安定していた。
総合的に見て、合格基準とされる点数は大幅に上回っていた。久しぶりに「本当に我が子か?」と目を疑うような感覚を覚えた。

息子はすっかり自信をつけた様子で、第2志望校については「まず大丈夫だと思う」と言い切っていた。
ただ、私は順位よりも、「算数で思ったほど取れていない」という一点が気になっていた。
それでも、得意科目で点を伸ばし、理科と社会は平均水準で踏ん張ること。つまり 自分の勝ちパターンを出せた模試 だったことは間違いない。


そして迎えた、12月の公開学力テスト当日。
朝方、ふと目が覚めた。隣に息子がいない。嫌な予感がしてリビングへ行くと、案の定、起きて遊んでいた。
これで公開学力テスト当日の、三か月続けて同じ光景だった。理由は分かっている。模試のプレッシャーと、前日の昼寝による睡眠の乱れだ。
私は感情的にはならず、「この習慣は変えないと、いずれ痛い目を見る」とだけ伝えた。

テストを終えた息子の感触は、国語は手応えがあり、算数はうまくいかなかった、というものだった。
入試本番まで残りわずか。私は父として、いくつかのことを伝えた。それは思いつきではなく、入試本番を意識した、生活と勉強の整え方だった。話した内容は紙に書き、息子に渡した。息子は素直にうなずき、その紙を机に貼った。


翌朝、リビングへ行って違和感に気づいた。妻のiPadがキッチンに置きっぱなしで、ヒーターもつけっぱなしになっていた。
前夜、あれだけ話し合った直後に、息子は夜中にiPadで遊んでいたのだ。怒りよりも先に、裏切られたような寂しさが込み上げてきた。

私は息子が起きる前に家を出るため、直接話すことができない。事実を妻に伝え、対応は任せることにした。


その夜、私は塾から帰る息子を迎えに駅へ行った。
乗っているはずの電車から降りてこない。次の電車にも姿がない。塾の出門記録では、確かに塾は出ている。電話で確認すると、最寄り駅までは送ったという。どうしたものかと焦っていると、妻から「帰ってきた」と連絡が入った。しかし息子は、「駅でお父さんに会わなかった」と言っているという。
最寄り駅は、改札が一つしかない小さな無人駅だ。そんなはずはなかった。
妻が息子に確認すると、叱られるのが怖くて電車に乗れず、塾から1駅分を歩いて帰ってきたという。そのうえ、私が駅で待っていることを分かっていながら、来なかったという事実も分かった。

さすがに、私の中で何かが切れた。
叱られるのが怖いからといって、夜に1人で歩いて帰るという不安全な行動を取ったこと。待っている私を避けたこと。そして、「会わなかった」と嘘をついたこと。
これまで、信頼と協力でやってきたつもりだった。その前提が崩れたと感じた瞬間、失望は怒りに変わった。
私は感情のままに、「もう受験のサポートはしない」と口にしてしまい、そのまま眠ってしまった。


その後、妻と息子で話し合いをしてくれた。

息子は、自分がこれまで私に頼りすぎていたこと、仕事で疲れている中でも支えてくれていたことへの感謝、そして、勉強だけでなく私の負担を軽くする行動も必要だということを少しずつ理解したようだった。

その翌日から、息子の行動が変わった。

その日にやることをノートに書き、終わったものを一つずつ消していくようになった。私が毎日やっている風呂掃除や布団敷きを、自分から引き受けるようにもなった。
学校や塾の準備も、言われる前に済ませるようになった。そして、早寝早起きを意識することを、自分のルールとして書き留めていた。
2日半ほど、私は息子とほとんど会話をしなかった。だが冷静になり、「感情に任せて怒ったが、信頼しているし、応援している」という気持ちは、きちんと伝えた。

一方で、身の回りのことや家の手伝いに主体的に取り組む姿勢は、受験以上に大切なことだと感じたので、それは続けてもらうことにした。
私自身もまた、「やりすぎて、疲れすぎている」という妻の言葉を受け止め、意識的に休むことを決めた。


数日後、12月の公開学力テストの結果が返ってきた。
得意の国語でしっかり点を取り、他の科目は大きく崩れなかった。判定としては、あと一歩という位置だったが、点数そのものは、これまでの中でも上位に入る出来だった。
入試本番に向けて、勝ちパターンとそのための課題がかなり明確になってきたと感じた。


この10日間は、我が家の中学受験の縮図のような時間だった。

悪い習慣が顔を出し、それに向き合えず、感情的になった父がいて、それでも家族で何とか立て直そうと試行錯誤した。
劇的な成功はなかった。だが、積み上げてきたものが確かに形になり、苦手としてきた科目にも手応えが出てきた。

一方で、「得意だから」と油断した算数が少しずつ下がってきている現実も見えた。

もうすぐ、浜学園のレギュラー授業は終わる。来週からは入試直前特訓が始まる。
時間は残されていない。だが、この10日間を経て、家族はもう一度、同じ方向を向いている。

(続く)

※この物語は随時更新しています。次話はこちら → 21
---
話数一覧
第1話 /第2話 /第3話 /第4話 /第5話 / 第6話 /第7話 /第8話 /第9話 /第10話 /第11話 /第12話 /第13話 /第14話 /第15話 /第16話第17話第18話第19話第20話第21話