【中学受験、父と息子の365日戦記】第8話|夏期講座と、それぞれの成長のかたち

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7月。浜学園の夏期講座が始まった。
レギュラー授業はそのまま続き、そこに夏期講座が加わる――つまり、“授業が増える”というより、“負荷が跳ね上がる”という表現の方が正しい。

教材が机に積み上がり、宿題範囲の確認と付箋貼りだけでもひと苦労。
思わず私は「これ、小学生が一人で管理するのは無理だろう…」とつぶやいた。

でも息子は、その山を前にして、立ち尽くすのではなく、一歩ずつ登ろうとしていた。

ときには、「もう今日は無理!」と叫ぶ日もある。
ときには、現実逃避で漫画を読み始めることもある。
でも、それでも「やらなきゃいけないことは分かっている」という気持ちが、表情や態度から伝わってきた。

夏期講座中も、復習テストは毎回行われる。
点数の上下は激しい。凡ミスも減らない。
でも、“食らいつく力”は、確実についてきていた。

国語や算数では、自分から「ここを間違えた」「この表現が分かりにくかった」と振り返るようになっていた。
何より、「間違えることは恥じゃない」と思えるようになってきたのだろう。

夜、私がそっと様子を見ると、
夏期講座の教材の間に、自分で買った本が挟まっていた。
星新一の短編集――あのとき、家族で書店に行って選んだ一冊だ。

私は何も言わなかった。
ただ、心の中で「いいぞ」とつぶやいた。

思春期の入り口にさしかかった息子は、口数が減ってきた。
あいさつも反応も控えめになってきた。
以前のように、塾での出来事を饒舌に話すこともなくなった。

それでも――表情の奥に、何かしらの“自信”と“確信”が宿っているように見えた。

私はもう、手取り足取り教えることをやめていた。
宿題範囲の付箋を貼ることだけは、まだ続けているが、
それもいずれ、自分でやるようになるのだろう。

息子には息子の成長がある。
そして、私は私の成長がある。

中学受験というのは、合格を目指す競争ではなく、
自分の歩幅を知り、それを信じて進むための訓練なのかもしれない。

そう思えるようになってきた。

(続く)

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※続編「第9話」は8月末に公開予定です。更新のお知らせはトップページまたはSNSでお伝えします。