【中学受験、父と息子の365日戦記】第9話|8月度編①自走の芽が育つ

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夏期講座が始まった八月。
復習テストの順位表を見て、私は目を疑った。
算数と国語で上位、理科もまずまず。苦手な社会でさえ平均点を割らない。

「点数が悪かったから、もう一回復習しておく」

ある夜、息子がそう口にした。
誰に促されたわけでもない。
机の上には過去の公開テストの問題用紙が広げられ、赤鉛筆でミスを塗りつぶしている。
何度も言ってもやらなかったことを、いまは自分から進んでやっている。

私は、ただ黙ってその姿を見つめた。
「言わなくてもやっている」――その事実に、胸が熱くなる。

けれど同時に、不思議な感情が湧いた。
いざ自走が始まると、親としてできることが減ってしまう。
口を出さないと決めていたのに、本当に出番がなくなると、心のどこかに小さな喪失感が残る。
その戸惑いをどう扱えばいいのか、まだ分からなかった。

ただひとつ確かに言えるのは、成績以上に「姿勢の変化」が大きいということだ。
ゲームやYouTubeを控え、たとえ見た時でも決められた時間(21時)の1分前にはピタリとやめて、机に向かう。
「今日はここまで」と自分で線を引き、また次の日には机に向かう。

小さな芽が、確かに育ち始めている。
その芽を守るのは、肥料や水よりも「信じて見守ること」なのかもしれない。

(続く)
※この物語は全12話(随時更新)で構成されています。次話はこちら → 第10話