【中学受験、父と息子の365日戦記】第19話|12月度① 静かに積み上がるもの

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11月最後の日曜日、予定時刻になっても息子が帰ってこなかった。
その日は第2志望校の冠テストだった。

いつもより遅い帰宅時間に、私は思った。
――塾で自己採点をしているな。ということは、手応えがあったのだろう。

玄関の鍵が開き、息子が照れくさそうに靴を脱いだ。

「社会以外、けっこう良かったと思う」

算数も国語も理科も、理想的に近い点が取れたらしい。

息子はそのままリビングに入り、久しぶりにアニメ「Dr.STONE」を見始めた。
画面の中のキャラクターが
「1秒あれば1歩、進歩できる」
と語ると、息子の頬がわずかに緩んだ。

もしあの言葉が、息子のどこかに残ってくれたら――
父としては、それで十分だった。

第1志望校のプレ模試、第2志望校の冠テスト。
大きなイベントが2つ終わり、残る模試は12月の公開学力テストだけとなった。

翌日、息子は嬉しそうに帰宅した。
どうやら速報が出始めているらしく、指導教員からこう言われたらしい。

「まだ集計中だけど、国語は全受験者の中でもトップに近いかもしれない」

息子の目が、一段と輝いている気がした。
夏から続けてきた読書の成果だろうか。
文章をつかむ力、感情に寄り添う力が、確かに息子の中で育っている。

「これで慢心するなって言われても難しいな」

そう言いながらも、笑って自戒しているあたり、息子の成長を感じた。

数日後、第1志望校のプレ模試の速報が届いた。
夏に試した過去問とは比べものにならないほど伸びていた。

特に国語は大幅に点数が上がり、算数・理科・社会も崩れず、“総合力として戦える形”になりつつある。

息子は控えめに喜びつつ、こう言った。

「ちょっと不安だったところもあったから安心した」
「これで油断する受験生はいないと思うしね」

本当にその通りだ。
だが、努力が形になり始めたことを、私たち家族ははっきりと実感していた。

一方で息子は、
「今回より、第2志望校の模試の方が点数いいと思うんだよね」
と、どこか楽しそうに言った。

第1志望校への気持ちは揺るぎない。
だが“模試としての手応え”となると話は別らしい。
より高得点が取れたかもしれない第2志望校の結果の方が、単純に“どう出るかを見るのが楽しみ”なのだろう。

志望校への思いと、テストを受けた手ごたえ。
二つの感情が自然と同居しているところに、息子らしさと成長を感じた。

入試を前に、息子と二人で受験校の下見に出かけた。
第1志望校を含む四つの学校を、電車と徒歩で巡る日帰り旅。

合わせて17,000歩。
さすがに息子も疲れ果てていたが、第1志望校の正門の前だけは別だった。

「来春、この学校に来るぞ!!」

息子は拳を突き上げた。
その声は迷いがなく、まっすぐだった。

説明会の抽選に漏れ、ご縁が持てなかった学校もあったが、校舎の雰囲気や空気の流れを感じるだけでも、「行きたい」という気持ちが自然と形づくられていく。

夜、妻と話した。

息子がここまで伸びてきたこと。
2月に浜学園へ入り、決して長くはない時間でここまで来たこと。

「本番で体調を崩すかもしれない」
「結果が望んだものにならないかもしれない」

それでも――
この一年間の成長は揺るぎない。

「もう、十分だと思う」
妻のその言葉に、私は深くうなずいた。

たとえすべての受験校にご縁がなくても、それは縁の問題にすぎない。
行くべき場所は必ずある。

12月初旬にこんな総括をするのは早いのかもしれない。
だが、私たちは心からそう思った。

――すでに我が家の中学受験は成功しているのだ。

息子は確かに成長した。
そして私たち家族は、その過程を誇りに思う。

(続く)

※この物語は随時更新しています。次話はこちら → 第20話
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