【中学受験、父と息子の365日戦記】第21話|12月度③ エンジンのかからない受験生と、待つことを選んだ父

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12月21日に日曜志望校別特訓(通称:日特)が終了した。翌22日には、マスターコースも終わった。

浜学園では、ここからが入試直前期である。

小学校の2学期が終わった12月23日から、「入試直前特訓パート1」が名古屋教室で始まった。
1コマ約4時間の長丁場が、連日続く。
3日に一度は2時間半の社会も加わり、小学生にとっては、なかなかハードな日程だろう。

この直前特訓は、年内は12月30日まで続き、12月31日から1月3日までの4日間は正月休みとなる。
1月4日から再開され、5日からは「入試直前特訓パート2」へ切り替わり、そのまま入試本番を迎える。

息子の入試初戦は1月6日だ。
親目線ではあるが、いよいよ目前まで迫ってきたという感覚が強まってきた。

冬休みに入るにあたり、息子の勉強机に立てかけられていたマスターコースの教材をいったん引っ込めた。
代わりに、まだやり残しの多い日特の教材を並べた。
ここに、直前特訓の教材が加わっていくのだろう。

これまで教材管理は私が行ってきた。
だが、直前期に何をどう勉強するかは、息子自身が決めるべきだと考えた。

「今まではお父さんが教材管理をしてきたけれど、これからは自分でできるかな?」

そう聞くと、息子は少し戸惑いながらも、
「うん。やってみる」
と答えた。

そして、冬休みに突入した。

初日の午前中から勉強に取り組むのだろうか。そんな淡い期待は、あっさり裏切られた。

前日の深夜、息子は私のiPadと妻のiPhoneを使って遊んでいた。しかも、数時間にわたって。

翌朝、出勤前に私がリビングで朝食をとっていると、息子がやってきて、
「今日から冬休みだから、早く起きちゃった」
と言った。

だが私は、すぐに分かった。息子がこっそり使っていた妻のiPhoneのバッテリーが減っており、充電しに来たのだ。

あまりに見え透いた嘘だったので、
「早く起きたのは、夜中に起きていたからじゃないの?」
と声をかけると、息子は気まずそうな顔をして、そのまま寝室へ戻っていった。

入試初戦まで半月ほどという時期にしては、正直、あまりに緊張感のない姿だった。

一瞬、頭に血が上りかけた。
だが幸か不幸か、これは一度や二度の出来事ではない。
比較的短時間で、私は冷静さを取り戻した。

4時間の直前特訓と塾への往復で精いっぱいなのだろう。
その後も、息子の勉強ペースが上がった様子はない。
睡眠時間、テレビの時間、そして時折の「こっそり遊び時間」だけが、妙に安定しているように見えた。

クラスメイトより1年以上遅れて浜学園に入学した息子は、徐々に実力を上げてきた。
11月末の第一志望校プレ模試では、B判定にまで上がっている。

第一志望校の入試本番まで、残り1か月強。
この直前期をしっかり踏ん張り、最後まで全力で走り抜ければ、合格に手が届くかもしれない。

私が手を貸し、伴走してやれば――
当然、スパルタになるだろうが――
合格へは、相当近づけるだろう。
そんな考えが頭をよぎる。

しかし、第一志望校は自主性を重んじる学校だ。宿題はほとんど出されず、自ら課題を考え、自らレベルを上げていく校風だと聞く。

在校生の親が言っていた言葉を思い出す。

「先生が手取り足取り教えてくれることはない。
ただし、生徒が助けを求めて手を差し出したときは、その手をつかんで離さない」

入試に向けてラストスパートすべきこの時期に、自分で何をやるべきか考え、分からなければ然るべき人に頼る。

それができなければ、仮に第一志望校へ入学できたとしても、その先に明るい未来が待っているとは限らない。

すでに私は、「やるべきことと、やらないことを見極めよ」と息子に伝え、紙にも書いて渡してある。
また、「お父さんは受験の専門家ではない。迷ったら塾の先生に聞きなさい」とも言ってある。

もうここからは、息子自身が走るしかない。自分が良いと思うタイミングで、自分の力でラストスパートをかけなければならない。

そして親である私は、伴走するのではなく、何があろうと息子を信じ、手を出さずに見守る役目を引き受けるべきなのだろう。

私が口を開くと、どうしても一言では済まなくなる。
息子には冷たいと思われるかもしれない。
それでも、過剰に口出しをして大失敗するよりはましだと考え、息子との会話を意識的に減らすことにした。

その代わり、塾から帰ってきたときや駅で出迎えるときには、
「おかえり。お疲れさま」
と、できるだけ温かく声をかけることにした。息子は、たぶん気づいていない。

夜中に長時間遊んでいた翌日は、iPadで遊ぶのを控えたようだった。ただ、その後も短時間ながら遊んでいる形跡は残っている。

小学生のやることだ。自分では足跡を消したつもりでも、しっかり痕跡は残っている。

「入試直前なのに、まだエンジンがかかっていないな」と思う一方で、
「小学生だし、こんなものか。受験生の半分くらいは、きっと似たようなものだろう」とも想像している。

本気で第一志望校を狙い、しっかり射程圏に捉えている子たちは、おそらく浜学園の教材をうまく使いながら、日々、自分の弱点を潰しているのだろう。
誰かに言われるでもなく、自分で考えながら。

息子は、現段階ではまだその域に達していない。
だがそれは、怠けているからではない。私には、ただ「そのタイミングが来ていないだけ」だと思えた。

受験本によれば、その“タイミング”が来るのは、入試1か月前の子もいれば、入試3日前の子もいる。
そして、多くの子は、結局来ないまま入試を迎えるらしい。

だから私は、無理にそのタイミングを引き出そうとするのではなく、ただ信じて待つのだと、心に決めた。

これを待てないようでは、親としての成長がないまま、この先に訪れる息子の本格的な思春期と向き合うことになる。

息子のためにも、自分のためにも。
最後の1か月、とにかく我慢して見守る。そう強く意識した、12月の終わりだった。

(続く)

※この物語は随時更新しています。次回は1月中旬公開予定です
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