【中学受験、父と息子の365日戦記】第22話|1月度① 入試直前に現実逃避をはじめた受験生と、再び関与することを選んだ父

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浜学園の2025年の授業は12月30日でいったん終了し、4日間の正月休みに入った。
息子の入試初戦は、1月6日である。

この初戦は、愛知県内の学校ではなく、しかも第1志望校を上回る難易度の学校だ。
1月中旬から始まる本番の入試に向けて、会場の雰囲気、試験当日の流れ、その他諸々を体感させる――それが当初、私がこの受験を考えた理由だった。

正直なところ、合格に手が届くほどの実力があるとは思っていなかった。
そのため、本当に受験させるべきかどうか、私は最後まで迷っていた。

ところが12月のある日、塾で指導教員からこの学校を受けるかどうか尋ねられた際、息子が「どうしようかな、と考えている」と答えたところ、
「この調子なら狙えるよ」
と声をかけられたという。

その一言が、息子の背中を押した。

塾の言う「狙える」とは、合格の可能性がゼロではない、という意味であって、決して可能性が高いという意味ではない。
そのニュアンスが、息子にどこまで正しく伝わっているのか――私はそこが少し気になっていた。

私は息子に、
「この学校は、1月初旬という早い時期に、全教科を高いレベルで完成させた子しか受からない試験だ」
と説明した。
だが、その言葉をどこまで実感として受け止められたかは、正直分からない。

さて、そんな入試が1週間後に迫っても、5日後に迫っても、息子の勉強は一向に進まなかった。
それどころか、大晦日、元日、二日と、まったく勉強をしないまま、テレビを見て過ごしている。

さすがに二日の夜、妻が息子に尋ねていた。
「入試が近いけれど、どういう考えなの?」

私は、12月中旬に「勉強については口出ししない」と決め、それを守り続けていた。
正月休みも、おそらく勉強しないだろうとは想像していたし、だからといって特別に焦っていたわけでもない。

だが、話を聞いてみると事情は少し違っていた。
入試が不安で、何をやればいいのか分からなくなり、考えれば考えるほど不安が膨らんでしまう。
その結果、動けなくなっている、というのだ。

勉強の話を一切しなかったから、息子の気持ちを知る機会もなかった。
だが、今振り返れば兆候は確かにあった。

夜中に、iPadや私のスマホを持ち出している痕跡があった。
あらかじめパスワードを変更していたため、数日は防げていたようだが、正月に入ってついにそれも突破され、夜中に遊んでいた。

現実逃避――。
そうであることは、手に取るように分かった。

不安で動けなくなり、現実逃避が度を越してきた。
この状態を見て、私は「温かく見守る」などと言っている場合ではない、と考えた。

正月三日。
息子、私、妻の三人で、話し合いの場を設けることにした。

私が切り出した。
「この半月、お父さんは勉強について何も言わなかった。自主性に期待して任せたからだ。
それまでは教材管理もしていたし、いろいろ口出しもしてきた。
つまり、お父さんに口出しされる状態も、何も言われない状態も、両方経験したことになる」

そして続けた。
「第1志望校の入試まで、あと4週間だ。
この4週間を過ごすにあたって、お父さんにあれこれ言われる方がいいのか、何も言われない方がやる気が出るのか、
それとも、この正月みたいに勉強をせず快適に過ごす方がいいのか。
どれが自分の好みか、はっきり言いなさい」

息子は泣きながら、
「分からない。分からない」
を繰り返すばかりだった。

私は最適解を求めているのではない。
息子の「好み」を聞いているだけだ。
ハンバーグとカレーライス、どちらが好きかを聞くのと同じだ、と説明しながら、答えを待った。

しばらくして――おそらく数十分後だろう。
息子は、ようやく口を開いた。

「お父さんに、あれこれ言われてでも、合格したい」

その言葉を聞いて、私の役割は決まった。

この半月、私は息子の勉強に一切口出しをしてこなかったが、学習の進捗自体は把握していた。
12月22日で終わったレギュラー授業の宿題までは、ある程度こなしている。
だが、冬休みに入ってからの直前特訓の宿題は不十分。
副教材にもほとんど手がついていない。
1日1ページの計算ドリルも、11月末から止まったままだ。

まずは、できていないところの立て直し。
ただし、急に詰め込みすぎて、できないことを増やし、自信を失わせては逆効果になる。
それらを踏まえた上で、学習計画を立てた。

計画を立てたら、あとは実行だ。
3日の午後から勉強を再開し、夜は副教材や参考書を眺めながら、
「半分勉強、半分読書」
くらいの感覚で、負担をかけすぎないペースを保った。

すると、不安だ不安だと泣いていた息子の表情が、次第に明るさを取り戻していった。

――ところが。

翌4日の朝、私が起きてリビングへ行くと、私のiPadがケーブルごと消えていた。

あれだけ叱られ、大泣きし、
「勉強する」「iPadは触らない」「ゲームはしない」
と誓ったはずなのに、いきなりこれである。

私は、思わず笑ってしまった。

事実として夜中に遊んでいた点は同じだが、動機は違う。
これまでは現実逃避。
今回は、自信を取り戻したことによる油断だろう。

息子が起きてきた後、iPadとケーブルを出させ、
「夜中にゲームをすると、パフォーマンスが著しく落ちるぞ」
と注意するにとどめた。

その後、勉強を始めたものの、夜中に起きていた影響は明らかだった。
集中力が続かず、時折、こっくりこっくりと舟を漕ぐ。

私はそのたびに、
「眠いのは夜中のゲームのせいだ」
「集中できないのも夜中のゲームのせいだ」
「夜中のゲームが、どれだけパフォーマンスを落とすか、よく実感しろ」
と、口酸っぱく言い続けた。

何度も、しかもねちねちと言われ続けた結果、
息子もさすがに
「夜中のゲームがよくないことは、よく分かった」
と理解したようだった。

それにしても、息子の回復の速さと、懲りない性格には感心させられる。
あれだけ叱られ、反省し、改善を誓ったはずなのに、これである。

一方で、私は自分自身を振り返っていた。
息子に対し、受験について、同じようなことを何度も繰り返している。
見守ると言いながら口を出し、長期的な成長を見ると言いながら、短期的な成果に一喜一憂する。

やっていることは、息子と大して変わらない。
そう思うと、だんだん可笑しくなってきた。

そんな気持ちで叱っていたせいか、息子がふと、こんなことを言った。
「お父さん、なんだか楽しそうだね」

誰のせいでこんなに悩んでいると思っているんだ――
そう言い返したくもなったし、実際に言い返した。

けれど、こうして言い合い、じゃれ合いながら進んでいくのが、どうやら我が家の中学受験らしい。

親も子も、まだ成長途中だ。
伸びしろは、どちらにもたっぷり残っている。

中学受験を通じて理想とするのは、自分で課題を見つけ、解決策を考え、実行していく「自走」だ。
だが、それにも人それぞれ、タイミングがある。

息子のタイミングは、どうやら今ではない。

親子でワーワー言いながら、泣いて、笑って、時にぶつかりながら進んでいく。
それが、我が家流の中学受験なのだろう。

(続く)

※この物語は随時更新しています。次回は1月中旬公開予定です
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