【中学受験、父と息子の365日戦記】第23話|1月度② 入試が始まり、当たり前のことと向かい合う

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1月6日、ついに息子の入試初戦の日が来た。
舞台は関西の有名進学校である。

この学校は、11月末頃から好調を維持し、年末年始も全力で勉強を続けて初めて「善戦できるかもしれない」レベルだ。年末年始をリラックスして過ごした現在の息子では、到底届かない――それが私の正直な見立てだった。

私がこの受験に期待していたのは、合格ではない。
本番の緊張感に触れること、問題レベルを体感すること、そして前日から当日にかけての流れを経験すること。そのすべてを、以後の入試の“練習”とすることが目的だった。

一方、息子は違った。
塾の指導教員から言われた「狙える」という言葉を、そのまま受け取り、全力を出し切れば合格できると信じていた。

試験は国語・算数・理科の3科目。
苦手な社会は含まれていない。

試験後、手応えを尋ねると「理科だけは解き切れなかったけど、国語と算数は手応えがあった」と言う。

「理科が解き切れなかった時点で合格はないよ」
そう言いかけたが、黙っていた。三日後には合格発表がある。まだ確定していない結果を、私が口にする必要はないと思った。

正味三時間にも満たない試験だったが、息子は「10時間超の日特より疲れた」と言っていた。
準備不足であっても、全力を出し切る経験にはなったようだ。これは確かな収穫だった。

問題はその後である。

その夜、息子は妻のスマホを持ち出して遊んでいた。
私も妻も、夜中のスマホ遊びを防ぐため、パスコードを頻繁に変更している。それでも生活の中で目にする機会があるのだろう。防御の薄いところを突いては遊んでいる。

第一志望校の入試まで、残り三週間。
夜中のスマホ遊びが定着すれば、睡眠は削られ、日中の集中力は落ちる。実際、浜学園各種テストの成績とネット遊びには、明確な相関があった。

「なんとしても防がなければならない」
そう思いながらも、スマホとインターネットの毒に侵された脳を前にすると、親が相当固めて防御しなければ防ぎきれない現実がある。

息子の頭には、
「6日の入試には手応えがあった。合格しているかもしれない。多少手を緩めても大丈夫」
そんな気持ちがあったのだろう。

そして迎えた合格発表の日。
結果は不合格だった。

息子は一時間ほどショックを受けた様子だったが、「まあ、当然の結果か」と受け止め直し、その後は食欲旺盛に食事をとり、塾へ出かけて行った。

私も、当然の結果だと感じていた。
むしろ「準備不足、勉強不足の割には、案外合格ライン近くまで迫れたな」という印象だった。

そもそも息子は、この学校の過去問すら解いていない。前日まで、3科目受験であることすら正確に把握していなかったほどだ。実際、前日夜に浜学園地元教室の先生から激励の電話をいただいた際、「過去問?ええ、やってません」と答え、絶句させてしまった。

私は少しの安堵と、大きな不安を同時に感じていた。
――息子が「勉強不足でも案外戦える」と思ってしまわないだろうか。

1月7日から、小学校では新学期が始まった。
息子は初日だけ登校し、翌日からは受験を理由に休んでいる。担任の先生によると、クラスでも10人以上が中学受験をするらしく、1月は登校しない子が多いそうだ。

浜学園の授業は「入試直前特訓PART2」に切り替わった。授業時間は短くなったが、その分、宿題は多く、難度も上がった。表立って登校を控えるよう指示しているわけではないが、教材からは「登校している暇はない」というメッセージが読み取れる。

息子はPART2の宿題に取り組みながら、これまでやり残してきた日特やPART1の課題も消化しようとしている。しかし、量と難度の前に、その意欲は削られていく。

集中力は続かず、やがて
「僕はもう十分頑張っている」
と開き直るようになった。

親としても、これまでの11か月の努力を知っているからこそ、これ以上求めるべきか迷う。それでも直前期としての勉強量が足りていないのは明らかだった。

「どうせ残りは三週間弱。言わずに後悔するより、言って後悔しよう」
そう考え、叱咤激励を続けることにした。

第4志望校の入試を四日後に控えた13日の夜。
息子はまた、夜中にネット遊びをしていた。

今度は、メルカリ出品用に梱包してあった古いiPod touchを引っ張り出してきたのだ。防御の穴を探し当てる執念には、驚くしかなかった。

厳しく叱り、iPod touchを引き出しの奥へしまったが、その二日後には、そこから持ち出して再び遊んでいた。

考えられる理由は二つだった。
一つは、第2志望校の過去問で合格点が取れていることによる油断。
もう一つは、入試そのものから目を逸らすための現実逃避である。

以前から、公開学力テストの前夜には同じ傾向があった。
注意しても、直るどころか悪化している。

この逃避行動は、中学受験期に解決できる問題ではない。
長い人生をかけて、本人が折り合いをつけていくしかないのだろう。

私が厳しく叱責しても改善するわけではない。
そう判断し、この件の対応は妻に任せることにした。

1月17日、第4志望校の入試日。
受験教室の紙を印刷し忘れるという私のミスはあったものの、それ以外は大きなトラブルなく試験会場へ入ることができた。

試験後、感想を聞くと、思いがけない言葉が返ってきた。

「国語を舐めすぎて、最後時間が足りなかった。その後は本気を出したから、算数は満点だと思う」

「舐めていた」という言葉があまりに不適切で、私は強く叱った。
息子は憮然とし、その後、半泣きになった。

妻によれば、問題量が少なく、慎重に解きすぎた結果、時間を失ったことを照れ隠しでそう表現したのではないか、とのことだった。

息子は反省し、私も反省する。
そんな試験になった。

四日後、合格発表があり、「特別奨学生B合格」だった。
上位10%には届かなかったことを知り、息子は渋い顔をしていた。原因は明白である。

中学受験の専門家は言う。
「直前期には子どもの本性が出る」

息子は、プレッシャーがかかると逃避行動を取る。
一方、私は「息子の受験」というプレッシャーの中で、非合理な行動に対して過剰に反応する。

そして、ようやく腹落ちし始めていることがある。
――これは、息子の受験だ。

息子は私ではない。
私の考える合理性とも、理想とも違う。

息子が自分で選び、自分で考え、自分の人生を歩んでいくために。
私は指示を出す存在ではなく、手を引く存在へ変わらなければならない。

受験という極限の状況の中で、
その「当たり前のこと」に、ようやく本気で向き合い始めているのだと思う。

(続く)

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