【中学受験、父と息子の365日戦記】第26話|2月度 信じるしかない場所まで来ていた

2月3日。第一志望校の合格発表はネットで行われる。
この日、私は会社でいつも通り仕事をしていたが、少しだけ席を外し、スマートフォンで発表サイトを開いた。受験番号とパスワードを入力する手が震え、ログインするのに手間取ってしまった。
画面に映ったのは
「合格おめでとうございます。」
の文字だった。
胸の奥から、じわりと熱いものがこみ上げてきた。
「うれしい」「ほっとした」という気持ちと同じくらい、「本当に、あの学校に合格したのか」という驚きがあった。
第一志望校の受験科目は国算理社の4科目。配点はいずれも100点ずつである。
国語と算数を得意とし、この2科目で苦手な社会を補う――これが息子の基本戦略だった。しかし、これまで受けてきた学校は理社の配点が低く、この戦略が比較的取りやすかった。一方、この学校ではその“逃げ道”がない。息子にとっては、明らかに不利な戦いだったはずである。
算数が得意とはいえ、この学校を受験する子どもたちの算数レベルは極めて高い。入試問題も難しく、よくできたとしても合格者平均をわずかに上回る程度だろう――私はそう考えていた。
正直に言えば、直前期の息子の集中力や勉強時間、浜学園の各種テスト、他校の入試結果を総合的に見て、第一志望校への合格は難しいのではないかと思っていた。
そのため、私は息子に対して、第二志望校を意識した学習計画を提示しようと考えていた。
だが、最終段階の学習計画は、息子自身が立てていた。
しかも、その内容は明らかに第一志望校を意識したものだった。二週間前は理科の復習、一週間前は日特の問題を引っ張り出してきて、算数の弱点補強と難問対応に取り組んでいた。
志望校に対する意識も、親子で異なっていた。
受験勉強を始めた頃は、私も息子も、この学校を第一志望としていた。しかし、浜学園で示される目標偏差値と息子の成績との差を見て、私は次第に「相当な努力をしなければ届かない」と感じるようになった。
10月頃の成績の伸び悩み、直前期の集中力の欠如、そして何より、自分自身をうまくコントロールできていない息子の姿を見て、私は心の中でこう考えるようになっていた。
――自由を重んじる第一志望校より、宿題量の多い第二志望校か、毎週のテストで厳しく鍛えてくれる第三志望校の方が、この子には合っているのではないか。
息子には言わなかったが、私の中の「第一志望」は、常に揺れていた。
一方で、息子の気持ちはこの一年間、まったくぶれていなかった。
浜学園の合格判定でA判定がなかなか出なくても、志望校への思いは変わらなかった。さらに言えば、学校祭を見学し、志望校を決めた三年前から、その気持ちは一度も揺らいでいなかった。
もしかするとその一貫した思いこそが、門を開いたのかもしれない。
「縁があった」という言い方もできるだろう。
この学校には、甥(息子にとっては従兄)が通っていることもあり、学校祭を何度か見学させてもらった。学校主催の市民公開講座にも参加した。他の志望校では参加できなかった説明会や体験授業も、なぜかこの学校では当選していた。
それでもなお、直前期の息子の姿を振り返ると、「自走」と呼べるレベルには、まだまだ遠いと感じている。
自由、外部からは放任とも言われる校風の中で、息子よりはるかに成長しているだろう同級生たちと、本当にやっていけるのか――親としての不安は、正直に言って消えていない。
それでも、はっきりしていることがある。
志望校の門を開いたのは、間違いなく息子自身だということだ。
直前の一週間、息子は正直、集中力を欠いていた。
「もう勉強したくない」という気持ちが、言葉や態度に滲んでいた。
だが、その姿を見て、妻は何も言わなかった。
勉強を途中で切り上げても、短時間で終えても、口出しをしなかった。
後から聞いて、私は妻の考えを知った。
「それはそれで、この子の人生でしょう」
「たとえ不合格でも、ここまで努力してきた事実は変わらない」
正直に言えば、私はその境地に達していなかった。
焦り、結果を恐れ、何とか前に進ませようとしていた。
今思えば、息子が最後まで走り抜けられたのは、
私の叱咤よりも、妻のその静かな覚悟に支えられていたのかもしれない。
これから先、勉強に関して私が言えること、できることは、そう多くはないだろう。
息子は息子のやり方で、選び、進んでいく。
父としては、その歩みを信じて、隣を歩き続けるだけでいいのだと思い始めている。
——中学受験は終わった。
だが、父としての学びは、ここからが本番なのかもしれない。
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