電卓のCASIO vs SHARP戦争の今を追う


「電卓はカシオかシャープか」という論争をご存じだろうか

公認会計士、税理士の受験生、簿記受験者、そして一部の経理担当者の間には、「電卓はカシオかシャープか」という論争があることをご存じだろうか。
かつて受験生だった私も自然にその論争に巻き込まれ、シャープ派の論客としてその優位性を主張しつつ、敵対勢力であるカシオの電卓を触らせてもらっては、
「やっぱり上手く打てない……」
となっていた。

実際のところ、計算結果はどちらを使っても同じである。
しかし、一度どちらかのキー配列や打鍵感に慣れてしまうと、実務に就いてからも簡単には乗り換えられない。

私が受験生を卒業したのは13年前。
ちょうどその年に生まれた息子も中学生になった。
時が過ぎるのは早い。
ふと、あの論争の今はどうなっているのかが気になり、少し調べてみることにした。


データで見ると、戦況は想像以上だった

まず市場シェアを調べてみた。

BCN総研によると、2026年3月の電卓販売シェアは、カシオ71.8%、シャープ15.4%、キヤノン10.3%、その他2.5%である。
電卓市場が上位3社による寡占状態であることは知っていたが、驚いたのはカシオのシェアだった。
20年前のデータは見つけられなかったものの、私の肌感覚では「カシオがやや優勢」程度だった。
ここまで差が開いているとは思わなかった。


論争は今でも続いているのか

この数字を見ると、
「そもそも『カシオ派 vs シャープ派』という論争自体が、もう終わっているのではないか」
という疑問も湧いてくる。
そこでネットを徘徊してみると、マネーフォワードに「経理に愛される電卓は? 二強のカシオ派VSシャープ派が激論」という記事を見つけた。
2026年1月更新なので、わずか半年前の記事である。
どうやら、この論争は今も静かに続いているらしい。

記事中には「会計士養成の予備校がおすすめしていた電卓」という一文があり、その方の愛機はシャープのEL-G35だった。
私は思わず、
「資格の学校 TAC出身かな」
と思ってしまった。

EL-G35やEL-G36は、かつてシャープが販売していた学校用電卓で、販売ルートが限定されていたと記憶している。
勤務先でも、この電卓を使っている公認会計士に出会っても、尋ねればほぼTAC出身者だった。
かくいう私もTAC出身で、現在もEL-G36を使っている。

現在、TACのオインラインストアでは後継機であるEL-G37を販売しているようだ。
一方、ライバルである資格の大原では、現在もカシオのND-26Sを販売している。

つまり、電卓メーカーとの付き合いは、実務に就いてから始まるのではない。
受験生時代に事実上決まってしまうのである。


「+」キーが隠されている理由が気になる

ところで、この記事を読んでいて私が気になったことがある。
EL-G35とEL-G36の写真では、どちらも「+」キーが指で隠れているのである。

もちろん偶然かもしれない。
しかし、シャープ派としては少し気になってしまう。

シャープの実務電卓は、数字キーが二色成形なので印字が消えることはほとんどない。
一方、演算キーは印字であるため、長年使うと「+」「-」「×」「=」などの印字が消えてくる。
これはカシオ派・シャープ派論争においては比較的よく知られた話である。

ちなみに、私の手元にあるEL-G36(現在は自宅で使っているサブ機)も、「-」は完全に消え、「=」もほぼ判読不能、「×」もかなり薄くなっている。

元受験生は電卓2台持ちが多い?!
サブ機は自宅&副業用。ときどき息子が持ち出す

もっとも、実務上はほとんど支障がない。
長年使っていれば、演算キーの位置など指が覚えてしまうからだ。
では、なぜ記事では「+」キーが隠れているのだろうか。

私が考えた仮説は二つある。

一つ目は、長年使用した結果「+」の印字が消えており、それがシャープの弱点として受け止められることを避けるため、撮影時に配慮した可能性。
もう一つは、逆に撮影用として比較的新しい個体を用意したものの、使用感が分かる部分を無意識に隠した可能性である。

もちろん真相は分からない。
単なる偶然かもしれない。
しかし、シャープ派だった私には、どうしても気になってしまうポイントだった。


職場を見て回った結果が衝撃だった

ネットだけでは実感が湧かなかった私は、勤務先の経理部で、20代から30代前半の社員が使っている電卓を見て回った。
そこで衝撃を受けた。

シャープ派が著しく少ないのである。

私を含めても3人しかいなかった。
特に20代でシャープを使っている人は皆無だった。

商業高校出身の20代女性は、
「高校で推奨されたのがカシオでした。」
と言い、
30代前半の男性は、
「大学入学時に『経済学部セット』として買った中にカシオが入っていました。」
と言う。

高校や大学で最初に手にした電卓を、そのまま社会人になっても使い続ける人は少なくない。
そう考えると、現在の販売シェアにも納得がいく。


メーカーサイトを見て納得してしまう

かつては拮抗していたはずの勢力争い。どうしてここまで差がついてしまったのだろうか。
その答えは企業サイトを見れば分かるのではないかと思い、カシオとシャープのホームページを見比べてみた。

シャープのトップページには、「電卓の歴史はいつも、シャープとともに…」という写真が掲載されている。長い歴史を感じさせる、とはいえ無難な作りである。
一方、カシオには「本格実務電卓スペシャルサイト」なるページが用意されていた。

「スペシャルサイト」である。

「たかが電卓」と思われがちな時代に、「本格実務電卓」を堂々と掲げ、しかも専用サイトまで作ってしまう。
毎日のように電卓を叩いている経理マンとしては、このネーミングだけで少しテンションが上がる。

「そうそう。分かってるな。」

そんな気持ちになった。
ラインナップを見ても面白い。
機能はほぼ同じなのに、若い女性に好まれそうな桃色があり、視認性を重視したカラフルなモデルがあり、オールブラックモデルまで用意されている。
電卓に落ち着きもへったくれもないだろうに、見ているうちに「これ、ちょっと格好いいな」と思えてくるから不思議である。
「計算できれば何でもいい」ではなく、「自分に合った一台を選んでほしい」というメッセージが、商品ラインナップから伝わってくる。

一方、シャープにはそうした訴求は見当たらなかった。

もっとも、それはシャープを責める話ではない。
カシオにとって電卓は現在も主要事業の一つであり、決算説明会資料でも、収益性の高い関数電卓だけでなく、一般電卓についても「リテンション向上による売上拡大」を掲げている。
一方、現在のシャープにとって、電卓は事業全体から見れば主要事業とは言い難いだろう。
そう考えれば、商品展開や情報発信に差が生まれるのは自然なことである。
だからこそ、現在の販売シェアにも納得してしまった。
かつてはシャープ派の論客だった私ですら、「次はカシオにしようかな……」と思ってしまったぐらいだ。

シャープ派を辞めることもないが、世間のシャープ派を増やす気もない

もっとも、今さら私がカシオへ乗り換えることはないだろう。
長年使って身についた打鍵感は、そう簡単には変えられない。
しかし、これから長く電卓を使う人に勧めるなら話は別である。
現在の販売シェアや商品展開を見れば、将来にわたって選択肢が豊富なのはカシオの方だろう。
どうしてもこの手の製品は、「勝ち馬に乗る」という考え方が合理的になってしまう。
だから私は、シャープ派を辞めるつもりはない。
しかし、世間のシャープ派を増やす草の根活動をする気もない。

息子には、
「お前にはカシオの電卓を買い与える。父の電卓を使ってはならない。」
とだけ伝えておいた。
前後の説明はかなり省略したものだから、
「??」
という顔をされてしまった。