税効果会計をどう説明するか?―「一言」から「5分」まで、本当に伝わる説明を考えてみた


税効果会計。

経理担当者や税理士、公認会計士にとってはおなじみの論点ですが、これを他人に説明しようとすると急に難しくなります。
私自身、税効果会計について説明しなければならない場面が何度かありました。

説明相手は様々です。

  • 財務諸表を読む投資家
  • 経理に詳しくない経営者
  • 管理職
  • 簿記学習者
  • 会計知識はあるが税効果会計だけは苦手という人

そして毎回悩むのです。

「どこまで説明すればよいのだろうか?」

税効果会計は、説明しようと思えば1時間でも話せます。
しかし現実にはそんな時間はありません。
相手によっては30秒しかないこともあります。
また逆に、時間をかけて説明できるからといって、会計基準の話から始めれば理解してもらえるわけでもありません。

実際、税効果会計を理解している実務家同士であっても、

  • その説明は正確だが難しい
  • 分かりやすいが厳密性に欠ける
  • 自分には分かるが一般向けではない

という議論になります。

そこで今回は、

「税効果会計を相手と時間に応じてどう説明するか」

を考えてみたいと思います。


税効果会計を一言で説明すると?

私の説明

税効果会計とは、将来の税金の増減を先回りして財務諸表に反映する会計の考え方です。

すなわち、将来税金が減るものを資産、増えるものを負債として計上する会計です。

厳密には「一言」ではなく二文になってしまいました。
しかし税効果会計という難しいテーマを本当に一言で説明しようとすると、どうしても抽象的になり過ぎます。

そこで、

  • 何をしている会計なのか
  • 繰延税金資産・繰延税金負債とは何か

を最短距離で伝えることを優先しました。


想定する聞き手

財務諸表を読む習慣のある投資家です。

ただし、

  • 税理士
  • 公認会計士
  • 経理担当者

ではありません。

有価証券報告書や決算短信は読んでいるものの、
「繰延税金資産って何?」
と聞かれたら答えられない人を想定しています。
また、説明に与えられる時間もほんのわずかです。


なぜこの説明にしたのか

税効果会計を説明すると、

利益と税金を対応させるための会計です

という説明がよく行われます。
もちろん間違いではありません。
むしろ会計基準の考え方としては、こちらの方が本筋です。

しかし投資家が貸借対照表を見て疑問に思うのは、

「利益と税金の対応」

ではなく、

「繰延税金資産って何?」
「繰延税金負債って借金なの?」

だからです。
そこで私は、まず

将来の税金の増減を見積もっている

という事実を伝えることを優先しました。


この説明で理解してほしいこと

この説明で理解してほしいことは一つです。

税効果会計は、未来の税金を見積もる会計である。

繰延税金資産は税金の前払いではありません。
繰延税金負債は未払法人税でもありません。

将来税金が減る効果があるなら資産。
将来税金が増える効果があるなら負債。

まずはこのイメージを持ってもらうことを最優先にしています。


税効果会計を1分で説明すると?

私の説明

税効果会計とは、将来の税金の増減を先回りして財務諸表に反映する会計です。

なぜそんなことができるのかというと、会計と税務では利益の計算ルールが異なるからです。

例えば、会計上は今年の費用になるのに、税務上は来年にならないと費用として認められないものがあります。

この場合、今年は税金を多く払うことになりますが、来年になればその分だけ税金は少なくなります。

税効果会計では、このような将来の税金の増減をあらかじめ見積もり、財務諸表に反映しています。


想定する聞き手

経理に詳しくない経営者です。

決算説明会や金融機関との面談などで、
税効果会計について触れなければならない場面はある。
しかし会計基準を勉強したいわけではない。
そんな人を想定しています。


なぜこの説明にしたのか

一言バージョンでは、

将来の税金の増減を先回りしている

という結論だけを伝えました。

しかし、それだけでは次の疑問が出てきます。

「未来の税金なんて本当に分かるの?」

税効果会計は未来予測をしているわけではありません。
景気予測や業績予想でもありません。

そうではなく、
会計と税務のルールの違いによって発生する将来の税金の増減
を扱っています。

そこで1分版では、
「未来を予言しているわけではない」
ことを伝えることに重点を置いています。


この説明で理解してほしいこと

税効果会計は未来予測ではない。

既に存在している会計と税務のズレを計算している。

という点です。


税効果会計を3分で説明すると?

私の説明

税効果会計とは、将来の税金の増減を先回りして財務諸表に反映する会計です。
その背景には、会計と税務で利益の計算ルールが異なるという事情があります。

例えば賞与引当金を考えてみます。

会計では、従業員が今年働いた分の賞与であれば、まだ支払っていなくても今年の費用として計上します。
しかし税務では、実際に支払うまでは費用として認められません。
その結果、今年は会計上の利益よりも税務上の利益の方が大きくなり、税金を多く支払うことになります。

ここで重要なのは、この差が永久に続くわけではないということです。

来年になって賞与を支払えば、税務でも費用として認められます。
つまり今年多く払った税金は、来年になれば減ることになります。

税効果会計では、この将来の税金の減少効果をあらかじめ資産として計上します。
これが繰延税金資産です。

逆に、将来税金が増えることが分かっている場合には、その増加効果を負債として計上します。
これが繰延税金負債です。

つまり税効果会計とは、
「今と将来の税金の増減を結び付けて考える会計」
と言うことができます。


想定する聞き手

経理担当者ではないものの、
税効果会計をある程度理解したいと考えている経営者です。


なぜこの説明にしたのか

税効果会計の説明では、

会計と税務にズレがあります

という説明がよく行われます。

しかし、それだけでは十分ではありません。

多くの人は、

「ズレがあるのは分かった。でもなぜ資産や負債になるの?」

と感じます。

そこで3分版では、ズレそのものではなく、
将来そのズレが解消されること
に焦点を当てました。


この説明で理解してほしいこと

税効果会計が扱うのは、

単なるズレではありません。

将来解消されるズレ

です。

例えば、
交際費の損金不算入のように永久に認められないものは税効果会計の対象になりません。

一方、
賞与引当金や退職給付引当金のように、
将来認められることが分かっているものは対象になります。

ここが税効果会計の核心だと思います。


税効果会計の説明に5分かけられるとき

私の説明

税効果会計とは、将来の税金の増減を先回りして財務諸表に反映する会計です。

その結果として、
将来税金が減るものは繰延税金資産、
将来税金が増えるものは繰延税金負債として計上されます。

では、なぜそのような処理が必要なのでしょうか。

例えば賞与引当金100万円を計上したとします。
法人実効税率は30%とします。
会計上は100万円の費用なので利益は100万円減少します。

本来であれば、それに対応して税金も30万円減るはずです。
ところが税務上は費用として認められないため税金は減りません。

このままだと、
「今年の利益に対応する税金はいくらなのか」
が分かりにくくなります。

そこで税効果会計では、
「今年は税金を30万円多く払っている状態だ」
と考えます。

そして、
「その30万円は将来税金が減る形で回収できる」
と考えます。

この将来の税金減少効果30万円を繰延税金資産として計上します。
同時に損益計算書では法人税等調整額を計上し、
税金費用を本来あるべき金額へ修正します。

つまり税効果会計は、
税金そのものを変える会計ではなく、税金費用の見せ方を調整する会計
なのです。


想定する聞き手

簿記や財務諸表の基礎知識を持っている人です。

  • 経理担当者
  • 管理職
  • 簿記学習者
  • 中小企業経営者

などを想定しています。


なぜこの説明にしたのか

税効果会計の解説では、繰延税金資産や繰延税金負債ばかりが注目されがちです。

しかし会計基準が本当に実現したいことは、

利益に対応する税金費用を表示すること

です。

その結果として、
繰延税金資産や繰延税金負債が生まれています。

そこで5分版では、
貸借対照表よりも損益計算書に焦点を当てました。


この説明で理解してほしいこと

税効果会計の主役は繰延税金資産ではなく、税金費用の期間配分である。

これが5分版で最も伝えたいことです。


補足:なぜ税効果会計は生まれたのか?

税効果会計の説明をすると、
かなりの確率で次の質問を受けます。

「なるほど。でも、どうしてそんな面倒なことをするのですか?」

「昔からあった制度なのですか?」

実は税効果会計が日本で導入されたのはそれほど昔ではありません。
1998年に企業会計審議会が税効果会計に関する会計基準を公表し、1999年3月期から本格的に適用されるようになりました。

背景にあったのは、
企業の実態をより正しく財務諸表へ反映したい
という考え方です。

税効果会計導入前は、
会計上の利益と税金費用の対応関係が崩れることがありました。

そこで、

「その年の利益に対応する税金を表示しよう」

という考え方から税効果会計が導入されました。
言い換えれば、
税効果会計は税務のための制度ではありません。
投資家や金融機関など、
財務諸表を利用する人に対して企業の実力をより適切に伝えるための制度なのです。


おわりに

税効果会計は難しい論点です。

だからこそ、
最初から正確さを追求すると伝わらなくなります。

私自身、今回改めて考えてみて、
説明には順番があるのだと感じました。

  • 一言なら「将来の税金の増減を先回りしている」
  • 1分なら「会計と税務のルールが違う」
  • 3分なら「将来解消されるズレを扱っている」
  • 5分なら「税金費用の期間配分が目的である」

どれも間違いではありません。

ただ、相手と時間によって説明の重点が変わるのです。
税効果会計を理解することも大切ですが、それ以上に、
「相手に応じて何を省略し、何を伝えるか」
を考えることの方が難しいのかもしれません。