DCマッチング拠出を増額する前に考えたい 退職給付パッケージの設計図
2026年の制度改正により、企業型DC(確定拠出年金)のマッチング拠出限度額が引き上げられました。
私の勤務先でも、制度改正に合わせて拠出額を増額した人が少なくありません。
DCのマッチング拠出は掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。
そのため、
「拠出できるなら最大まで拠出した方が得ではないか」
と考える人も多いでしょう。
実際、所得控除という観点だけで見れば、その考え方は十分合理的です。
しかし、DCは掛金を拠出する制度であると同時に、将来受け取る制度でもあります。
私は、マッチング拠出を考える際には、DC単体ではなく、退職時に受け取る給付全体の中で位置付ける必要があると思っています。
本記事では、退職時に受け取る退職一時金、DB(確定給付企業年金)、DC(確定拠出年金)、公的年金などをまとめて、
「退職給付パッケージ」
と呼ぶことにします。
退職給付パッケージには異なる制約がある
退職給付パッケージを構成する制度には、それぞれ異なる特徴があります。
重要なのは、
金額の大小ではなく、自由度と制約の違い
です。
私は次の5層で整理すると理解しやすいと思っています。
第1層 退職一時金
最も自由度が低いのが退職一時金です。
通常は、
- 受取時期を選べない
- 受取方法を選べない
という特徴があります。
退職すれば受け取ることになります。
税務上は通常、
退職所得
として課税されます。
退職所得控除が適用され、さらに控除後残額の2分の1が課税対象となるため、税制上は比較的優遇されています。
もっとも、受け取るかどうかを選択する余地はほとんどありません。
退職給付パッケージの土台となる部分です。
第2層 DB(確定給付企業年金)
次にDBです。
制度内容は会社によって異なりますが、
- 一時金
- 年金
の選択が可能なケースがあります。
税務上は、
- 一時金受取 → 退職所得
- 年金受取 → 雑所得
となるのが一般的です。
つまり、
退職所得として受け取るのか、
年金雑所得として受け取るのか、
という選択肢を持っています。
一方で、受取開始時期については制度上の制約があり、DCほど自由ではありません。
第3層 DC(確定拠出年金)
DCはさらに自由度が高くなります。
一般的には、
- 一時金
- 年金
を選択でき、
さらに受取開始時期についても一定の自由度があります。
税務上は、
- 一時金受取 → 退職所得
- 年金受取 → 雑所得
となります。
DBと似ていますが、受取方法や受取時期の選択肢が広い点が特徴です。
ただし、
自由度が高い = 制約がない
ではありません。
DCには受給開始年齢や受給期限に関するルールがあります。
現在は75歳までに受給を開始する必要があります。
そのため、
「将来になってから考えればよい」
という制度ではありません。
第4層 NISA
NISAは退職給付制度ではありません。
しかし、老後資産形成を考えるうえでは無視できない存在です。
特徴は、
- 掛金所得控除なし
- 運用益非課税
- 引出自由
- 受取期限なし
です。
税務上は、
運用益も売却益も非課税です。
DCと比較すると入口の税制優遇はありません。
一方で、
出口の自由度は極めて高い
という特徴があります。
第5層 公的年金
最後が公的年金です。
公的年金には、
- 一時金化できない
- 終身給付
- 国が支払う
という特徴があります。
税務上は雑所得ですが、
公的年金等控除の適用があります。
受取方法の自由度はありませんが、
繰上げ受給や繰下げ受給により受給開始時期をある程度調整することは可能です。
また、
終身年金である
という特徴は、他の制度にはない大きな強みです。
なぜ退職給付パッケージ全体で考える必要があるのか
ここで一つの例を考えてみます。
仮に退職時点で、
- 退職一時金 1,000万円
- DB 1,000万円
- DC 2,000万円
があるとします。
この場合、
退職一時金については受取方法を選ぶことができません。
まずこの部分が確定します。
次にDBです。
DBは一時金で受け取るのか、
年金で受け取るのかを検討できます。
そして最後にDCです。
DCは受取方法だけでなく受取時期についても選択肢があります。
つまり、
自由度の低い制度で確定する部分を先に把握し、その上で自由度の高い制度を調整する
という考え方が必要になります。
実務上は、DBを一時金で受け取る人も少なくありません。
もちろん、その選択自体が誤りというわけではありません。
しかし、
- 退職一時金
- DB
- DC
をどのように組み合わせて受け取るかによって、
退職所得として受け取る金額も、
年金として受け取る金額も変わります。
そのため、
制度ごとに個別に考えるのではなく、
退職給付パッケージ全体で考える必要があります。
NISAという選択肢も忘れてはいけない
DCのマッチング拠出は非常に有利な制度です。
しかし、
有利だからといって、すべての追加資金をDCへ振り向けるべきかというと、それは別の話です。
NISAには所得控除こそありませんが、
- 受取期限がない
- 引出時課税がない
- 相続時まで保有することも可能
という特徴があります。
したがって、
今後の資産形成を考える際には、
DCとNISAを対立的に考えるのではなく、
退職給付パッケージ全体の中でどのような役割を持たせるか
という視点が重要になると思います。
まとめ
2026年の制度改正により、DCマッチング拠出の活用余地は広がりました。
所得控除というメリットを考えれば、多くの人にとって有力な選択肢であることは間違いありません。
一方で、
退職後に受け取る給付を全体として見ると、
- 退職一時金
- DB
- DC
- NISA
- 公的年金
には、それぞれ異なる制約があります。
私は、
自由度の低い制度から順番に整理し、その上で自由度の高い制度を活用する
という考え方が重要だと思っています。
DCは非常に優れた制度です。
ただし、入口の所得控除だけでなく、出口の受取方法まで含めて考えることで、
そのメリットをより活かすことができるのではないでしょうか。
